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学芸員レポート
東京/南雄介|神戸/木ノ下智恵子倉敷/柳沢秀行福岡/川浪千鶴
「世紀の祭典 万国博覧会の美術
パリ・ウィーン・シカゴ万博に見る東西の名品」
東京/国立新美術館設立準備室 南雄介
 友人とギルバート・オサリヴァンの話を(メールで)したあと、そういえばギルバートとサリヴァンを扱った映画を録画していたな、と思い出す。(野暮を承知で説明しておくならば、ギルバート・オサリヴァンは、「アローン・アゲイン」や「クレア」を1970年代に大ヒットさせた英国のシンガー・ソングライターである。そして、ウィリアム・シュウェンク・ギルバートとアーサー・サリヴァンは、ヴィクトリア朝の英国で喜歌劇(オペレッタ)を次々と発表し、人気のあった喜劇作家と作曲家のコンビである。まあ、オサリヴァンの芸名はギルバート&サリヴァンに由来するんだろうなあ)早速さがし出して見てみると、それは、『トプシー・ターヴィー』(1999年、マイク・リー監督)という映画で、ギルバート&サリヴァンの最高傑作とされる喜歌劇『ミカド』(1885年初演)の誕生にまつわる物語であった。
 映画によれば、ギルバートが『ミカド』のインスピレーションを得たのは、妻に連れられて出かけた「ナイツブリッジの日本展」であったという。(ただしNHK衛星放送放映時の字幕は「万国博覧会の日本館」となっていた。1884年にロンドンで万国博覧会は開かれていない)。「ミカド」の筋立ては、極東の不思議な君主国を舞台とした、一種のおとぎ話である。だが、衣装(キモノ)は、リバティから取り寄せた日本直輸入の生地を用いており、ナイツブリッジの日本村から日本人を招いて、その所作を研究し、振付に生かしたと言われている。このような喜歌劇が、人気絶頂の作者たちによって書かれ、上演されて評判をとったという事実からも、ヴィクトリア朝当時の英国におけるジャポニズムの広がりを知ることができる。
 ギルバート&サリヴァンの『ミカド』に描かれる世界は、現実の日本とは似ても似つかないものだった。日本の地も踏まないで奇妙な喜歌劇をでっち上げてしまう100年前の英国人の傲慢を責めるのはたやすい。だが、「ミカド」上演のエピソードを知って私たちが感じるのは、私たちの祖先に対する、ちょっと誇らしい気持ちでもあるのではないだろうか。当時、世界でもっとも栄えていた都で、彼らは、人々の関心をとらえたのだ。

世紀の祭典 万国博覧会の美術
 前置きが長くなってしまったが、この19世紀後半における欧米の日本ブーム、ジャポニズムに関して、「なぜそれが…」という疑問に一つの答えを与えてくれるのが、この展覧会「世紀の祭典 万国博覧会の美術」である。展覧会第I部では、19世紀後半の欧米各国で開催された万国博覧会において、日本がどのようなもの──主として工芸──を出品しどのように受容されたのかを、膨大な量の作例によって検証している。多くの場合、海外での展観を目的に制作された作品群は、繊細で高度な技術の集積によって、見る者を圧倒するようなできばえを示している。初々しい気負いをみなぎらせた、これらの作品群を見ると、私たちはやはり、誇らかな気持ちをいだくのではないだろうか。
 さて、展覧会は実のところ二部構成となっていて、19世紀後半の万国博覧会で日本が出品した工芸作品を中心とする「第I部 万国博覧会と日本工芸」と、都合5回のパリ万博において、美術の展示館で発表された膨大な数の絵画のなかから、一部を抜粋して紹介した「第II部 万国博覧会の中の西洋美術」からなっている。カタログを見てみると、第I部と第II部とは、本来別々の展覧会として企画されたらしく思われる。このあたりは、実際に展覧会を見ると、さもありなむと思わせる部分である。万国博覧会と美術という意味では、主題は共通しているのだが、出品作品の選択や展示の構成に顕著な違いがあるのだ。第I部・第II部合わせると、出品作品が550点にものぼることを考えると、あるいは別々の展覧会とした方が、観客にとってはありがたかったかもしれない。
世紀の祭典 万国博覧会の美術
世紀の祭典 万国博覧会の美術
カタログ
 ただ、別の見方をすれば、二部構成の形をとって2つの展覧会を統合することによって、19世紀後半において万国博覧会という装置が持ちえた力、吸引力のようなものが、いくばくかは体感されるような、そんな展覧会になったのではないか。天井の高い東京国立博物館平成館の展示室をさまよい歩きながら、往時の万国博覧会の観客たちの美的興奮・知的興奮に思いを馳せる。それは、大量の事物が集積され展覧されることによって、新しい意味やヴィジョンに転化されていった、そんな時代であったのだろう。
 翻って今日は……、と考える。私たちが日々携わっている美術館での展覧会も、この博覧会時代に起源を持つものに違いない。「モノ」を並べることによって、どれだけの美的興奮・知的興奮を観客に与えることができるか。この原点の素朴な力につねに立ち返ることによって、展覧会という装置の効力は更新される。考えてみれば、今日、世界の様々な都市で開催されるようになった国際現代美術展(ビエンナーレとか、トリエンナーレとか、称されるもの)は、この万国博覧会という枠組みの持つ魅力のある部分を、明らかに継承しているわけである。ということであれば、博覧会時代は今なお続いているのだ(と言ってしまって、本当に正しいのだろうか?)
会期と内容
●「世紀の祭典 万国博覧会の美術 パリ・ウィーン・シカゴ万博に見る東西の名品」

東京展
2004年7月6日〜8月29日 
東京国立博物館
URL:http://www.tnm.go.jp/jp/
東京都台東区上野公園13-9
tel. 03-3822-1111(代表)

大阪展
2004年10月5日〜11月28日 
大阪市立美術館
URL:http://www.city.osaka.jp/museum-art/
大阪市天王寺区茶臼山町1-82
tel. 06-6771-4874

名古屋展
2005年1月5日〜3月6日
名古屋市博物館
URL:http://www.ncm-jp.com/
愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂通1-27-1
tel. 052-853-2655
[みなみ ゆうすけ]
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