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学芸員レポート
東京/南雄介|神戸/木ノ下智恵子福岡/川浪千鶴
「草間彌生」展
東京/国立新美術館設立準備室 南雄介
草間弥生 草間彌生という作家は、ひじょうに多くの顔をもっている。それは、草間がその芸術活動において多くのペルソナを操っているということを意味しない。草間の芸術活動のメディアは、絵画や素描やコラージュや版画などのいわゆる平面作品、彫刻やオブジェ、あるいはインスタレーションなどの空間的な作品、光や動きを用いた作品、パフォーマンスやイヴェント、さらには小説その他の書物など、じっさい多岐にわたっている。そしてそれらは、個々のメディアに合わせて特有の形式を持っており、それも具体的であったり抽象的であったり、個人的であったり普遍的であったり、と性格を異にしているのだが、それでもなおすべてが、草間という一人のアーティストの個性、人格に収斂していく。絵画にせよ彫刻にせよコラージュにせよ、草間の作品は他の誰の作品にもほとんど似ていない。草間の作品は、どれをとっても何をとっても、草間の作品以外のものに見えない。
 それにもかかわらず、やはり草間が多くの顔を持っているとすれば、それはどういう意味なのか。それはつまり、見る人によって草間の作品は違った顔を見せるということになるのではないか。草間の作品で多用される鏡のように、それは観客の顔を映し出す、と言えば、ちょっと言い過ぎかもしれない。別の言い方をすれば、作品も作家も、ひじょうに個性的でありながら、多様な見方を許容する広がりと重層性を合わせ持っているわけである。彼女の芸術のこのような特性は、多様な解釈を招き入れ、またさまざまに構想の異なった展覧会の開催を可能にする。そして、草間の芸術に引き込まれた経験のあるキュレイターは、誰しも「私の草間彌生」を語る欲望を禁じえなくなるのではないだろうか……。昨年から今年にかけて、丸亀から釧路に巡回したもの、森美術館から札幌に巡回したもの、そして今回の5館巡回のものと、国内に限っても3つの美術館規模の草間展が企画されたというのは、本来ならばかなり異例のことであろうが、それも不思議ではないようなところが、草間にはあるのである。
 10月の終わりから東京国立近代美術館で始まった草間彌生展がその意味で興味深いのは、1年をかけて5館をまわる巡回展でありながら、館によって副題が違う――つまり、別の展覧会として構想されているという点である。東京と京都の国立近代美術館が「永遠の現在」、広島市現代美術館が「魂を燃やす8つの空間」、熊本市現代美術館が「無限の大海をいく時」、そして最後の松本市美術館が「魂のおきどころ」という具合になっており、出品リストも異同がある。巡回展としてこれでいいのかという論議はあるのだろうが、作家と作品の豊かな意味の可能性を開いていく試みとして、積極的に評価すべきであると考える。余裕があればすべての会場を見て、担当キュレイターの思いを見届けてまわることができれば、かなりおもしろいのではないだろうか。
 さて、しかしながら現在のところ、東京展「永遠の現在」しか開いていないのであるが、この「永遠の現在」(英語だとEternity-Modernity)というタイトルはほんとうに素晴らしいと思う。というのは、つとに私は、1980年代以降の草間の絵画はひじょうにすぐれたものであり、またモダニズム絵画でもあると考えていたので、この「永遠の現在」(Eternity- Modernity)という言葉は、草間の作品をモダニズムに接合するとともに一挙にその本質を言い当てていると感じられたからである。そして、東京の近代美術館の展覧会も、まさにこのタイトルを体現した、ひじょうにすぐれたものであったと思う。過去に見た草間展の展示では、スペクタキュラーな空間に幻惑され、個々の作品に目がいかないことも多かったのだが、今回は個々の作品が見やすく、そのクオリティや構造に、強度や奥行きに、眼差しが引き戻されることになった。それは、多くの人々の草間体験に深みを加えることになったのではないかと思う。
会期と内容
●「草間彌生――永遠の現在」展
会場:東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3-1 Tel.03-3214-2561(代)
URL:http://www.momat.go.jp/
会期:2004年10月26日(火)〜12月19日(日)
開館時間:10:00〜17:00(金曜日は20:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日
●「草間彌生――永遠の現在」展
会場:京都国立近代美術館
京都府京都市左京区岡崎円勝寺町 Tel.075-761-4111
URL:http://www.momak.go.jp/
会期:2005年1月6日(木)〜2月13日(日)
開館時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(ただし1月10日(月)は開館、1月11日(火)が休館)
●「草間彌生――魂を燃やす8つの空間」
会場:広島市現代美術館
広島県広島市南区比治山公園1-1 Tel.082-264-1121
URL:http://www.hcmca.cf.city.hiroshima.jp/
会期:2005年2月22日(火)〜4月17日(日)
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(ただし月曜日が8月6日又は祝休日にあたるときはその直後の祝休日でない日)、12月29日〜1月3日
●「草間彌生――無限の大海をいく時」展
会場:熊本市現代美術館
熊本県熊本市上通町2番3号 Tel.096-278-7500
URL:http://www.camk.or.jp/
会期:2005年4月29日(祝)〜7月3日(日)
開館時間:10:00〜20:00(入場は19:30まで)
休館日:火曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)、年末年始(12月29日〜1月3日)
●「草間彌生――魂のおきどころ」展
会場:松本市美術館
長野県松本市中央4-2-22 Tel.0263-39-7400
URL:http://www.city.matsumoto.nagano.jp/artmuse/
会期:2005年7月30日(土)〜10月10日(祝)
開館時間:9:00〜17:00
休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)、年末年始(12月29日〜1月3日)

[みなみ ゆうすけ]
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