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「横浜トリエンナーレ2005」/「東京府美術館の時代1926〜1970」
東京/
国立新美術館準備室
南雄介
「横浜トリエンナーレ」がいよいよ始まる。関係者にとっては何度も蒸し返されるのは楽しくないだろうが、字義通りには「3年に一度」のはずの「トリエンナーレ」が、1年遅れの開催になっている。そのことを記してみたのは他意もない、前回のことを思い起こすためである。2001年という年は、暦の上では21世紀の劈頭にあたっているわけだが、われわれの記憶の上では、何より「9.11」を想起させる。私の個人的な記憶の上でも、トリエンナーレと「9.11」とは切り離すことができない。このことは4年前にこの欄でも書いたことだけれども、「9.11」の映像をテレビで見続けたすぐあとにトリエンナーレを見に行ってしまったがために、その華やかさが「昨日の世界」のものに見えてしかたがなかった。(その後しばらくは漂っていた「9.11以後」という言説空間は、今やすでに、少なくとも日本では、かなり背景に退いてしまっている。おそらくそれは、当事国のアメリカが、その後のイラク戦争等の一連のアクションによって、この出来事を普遍化することを妨げてしまったからではないだろうか。)
いずれにせよ、今日の世界にとって4年間というのはかなり長いインターバルであり、2001年はかなり古い話になっている。美術の世界にも身の回りにも、その間にはあんなこともあり、こんなこともあり、いろいろと予測のつかないことも起こってしまったなあ、と思う(そういう意味で、国際展のインターバルには意味があったことに改めて気づく。2年おきのビエンナーレだと現況展的な意味あいが強いのだろう。5年おきのドクメンタは時代の変化を語ることができるのだろう。では3年おきだとどうなるのか、というのは継続的に見てみなければよくわからないのだが)。
さて、この稿を書いている現在、じっさいのところ展覧会をまだ見ていないし、始まってもいないので、周辺情報から判断するしかないのであるが、4人の専門キュレーターが同時代の世界の美術の現況を鮮やかに切り取って見せてくれた前回と比較すると、かなりニュアンスが異なった展覧会になっているのではないかという印象を受ける。テーマの「アートサーカス」について、チラシの文章をひいてみよう。
「静的な美術鑑賞の場としての展覧会ではなく、作品も時間の経過、人や場との関わりから刻々と変化し、動き続ける展覧会を目指します。/私たちの日常世界の中で、ともすると見失われがちな感性の広がりや価値観の大きな揺さぶり、アートが本来持っている機能、その醍醐味を、(……)提示することができればと考えています」
この文章はストレートにわかりやすいし、説得力がある。また総合ディレクターである作家・川俣正のアートの的確な説明にもなっているように思う。というわけで、展覧会は、作家・川俣正の作品としても見ることができるものではないだろうかと推察する。ひとつ指摘しておきたいのは、展覧会批判としての展覧会という側面が強調されていることだ。会場や予算や時間の制約を逆手にとって、国際展という枠組みに対する批判的なオルタナティヴを提示するというのは、難易度の高い試みではないかと思う。
これに関連して興味深く思われたのは、
東京都現代美術館
で開館10周年記念として開催されている展覧会「東京府美術館の時代1926〜1970」である。東京都現代美術館の前身である東京府(都)美術館の、いわゆる旧館で開催された4つの展覧会を通じて、その歴史を振り返るという企画であり、いわば展覧会史としての展覧会となっている。注目すべきなのは、選ばれている展覧会が、いずれも祝祭的なものであるということで、日本におけるこの種の実践の歴史についてのコンパクトな概観を得ることができる。1000点というオーダーで絵画・彫刻・工芸等の作品を部門別に並べた戦前の二つの展覧会(「第一回聖徳太子奉讃美術展」1926年、「紀元二千六百年奉祝美術展覧会」1940)に対し、戦後の「読売アンデパンダン展」(1949―63)はそのようなジャンル別による美術の制度を破壊しようとする。だが、より興味深く思われたのは、「読売アンデパンダン展」と1970年の「東京ビエンナーレ」の距離である。「読売アンデパンダン展」に出品された、いわゆる反芸術的な作品は、インスタレーション的な要素を含むとはいえ、閉じられた作家の営為であり、個別的な空間を持っている。そのため再制作を行なうことも可能なのだ。一方で、「東京ビエンナーレ」の作家たちの作品は、いずれもなんらかのかたちでサイトスペシフィックなものになっていて、たとえ再現を試みても、新たな展示空間の中では別個の作品になってしまう。カタログでゲスト執筆者の渡部葉子は、作家が展示空間や周囲の状況との関わりの中で作品を構想・制作したり、コミッショナーが作家を選択して展覧会をいわば共同制作したりといった展示のあり方は、世界的に見ても60年代の末に初めて現れたものであり、「東京ビエンナーレ」はこのような新しい展覧会のパラダイムの出現と、完全な同時代性を持っていたことを指摘している。
この「東京ビエンナーレ」が、関係者にとって「横浜トリエンナーレ」の実現のためのいわば起点となっていたことは、言うを俟たないだろう。それとともに、キュレーターが展覧会のキーパーソンとして表に出るようになってから30年あまりが経過したのだなということにも気づかされる。「キュレーターの時代」がこれからも続くのか、続くべきなのか。今回の「横浜トリエンナーレ」では、総合ディレクターのもとに3人の専門キュレーターが立てられ、作家選択や出品交渉の任にあたっているという。具体的にどのようなプロセスを経て展覧会の細目が決定されていったのか、それはわからないのだが、少なくとも国際展のあり方を再考する契機にもなるのではないだろうか。いずれにせよ、80人(あるいは組)以上のアーティストの作品を国内で眼にすることができる機会はそうそうないわけで、出品作家リストを眺めていると、やはり期待感が広がってくるのである。
会期と内容
●東京府美術館の時代 1926〜1970展
会場:東京都現代美術館 企画展示室1・3階
東京都江東区三好4−1−1(木場公園内)
Tel. 03-5245-4111(代表)
会期:2005年9月23日(金・祝)〜12月4日(日)
開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜日(ただし10月10日は開館、翌火曜日休館)
●
横浜トリエンナーレ
会期:2005年9月28日(水)〜12月18日(日)
会期中無休
開場:10:00〜18:00(金曜日は21:00まで。入場は閉場の1時間前まで)
会場:横浜市山下ふ頭3号、4号上屋(山下公園先)ほか
[みなみ ゆうすけ]
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