artscape
artscape English site
プライバシーステートメント
学芸員レポート
札幌/鎌田享福島/伊藤匡東京/南雄介大阪/中井康之山口/阿部一直|福岡/山口洋三
第3回福岡アジア美術トリエンナーレ/上前智祐と具体美術協会展/柳幸典展
福岡/福岡市美術館 山口洋三
アルウィン・レアミーリョ
アルウィン・レアミーリョ「Fukuo (kar) 捕鯨計画」
角孝政
角孝政「不思議博物館・展示室A」
塩田千春
塩田千春「窓の家:第3の皮膚」
ティアルマ・ダメ・ルス・シライット
ティアルマ・ダメ・ルス・シライット「プラスチック・ラブ」
(舞踏青龍會との協同によるファッションショー)
撮影:西本彰子
中ハシ克シゲ
中ハシ克シゲ「震電プロジェクト」
岡本光博
岡本光博の作品。標識風の作品は《落米のおそれあり》(左)、《基地あり》(右)
 以前本コーナーで触れた「第3回福岡アジア美術トリエンナーレ」(FT3)が福岡アジア美術館にて先日開幕した。9月17日の正式開幕に先立って行なわれた開会式とレセプションには多くの関係者が詰めかけ、盛り上がっていた。連休に加えて作家のパフォーマンス、そして3月の福岡西方沖地震でやむなく中止となった「アジア楽市楽座リターンズ」などイベントも続き、にぎやかな幕開けとなった。アジア作家の「手仕事」に注目した前回FT2(2002)とは様変わりし、多数の映像作品、インスタレーション、そして絵画と多彩な内容で、むしろ最近世界のあちこちで開催される国際現代美術展の雰囲気に近いものとなったように思えた。いいかえれば、今度のFTはずいぶんと「アジア」から自由になったものだな、と実感したのである。それまでのFT(それ以前のアジア美術展も)は、否応なく「アジアらしさとは何か」という問いと直面せざるを得なかったし、またその特質を浮かび上がらせるためのテーマ設定がなされていた。今回テーマとして採用された「多重世界(Parallel Realities)」は、作家選考のための枠組みとして機能したのではなく、各国の興味深い作家を先に選考していった結果から帰納的に導き出されたものである。だから、「テーマ」と呼ぶには、それはかなりゆるやかなものであり、また、ひとりアジア特有の現象とはいえないだろう。このことが先の私の印象と深く関わっている。むしろそれは、グローバル化の進んだ世界の各地で現われている。グローバル化が世界を覆いつつあるが故に、鮮明になってきた互いの「現実」の相違、そして、なお明らかになってきた、 互いの「現実」への無関心さ。それゆえ個々の「現実」は平行するのみであり、だからこそ、ときとして有り得ない「同居」も起こりうる……その有り得なかった「同居」は、秩序や理念より別の理屈が先行してしまうという点では確かに「アジア的」なのかもしれないが……まあはっきりいって、コスプレやビデオゲーム、メイド風の女性を取り入れた作品が、絵画やインスタレーションと並んで「出品作」だなんて、少し前ならバカヤロウものですが(笑)、それが起こりえてしまう。それはたとえばアジアにも日本のサブカルチャーが受容されたとか、大衆消費社会が中国やベトナムにも到来したとかいう社会的経済的現象のイラストレーションとして作品を見ることとは、少し意味が違っている。多文化主義の行き過ぎた価値観の相対化がもたらした「なんでもあり」状況の帰結、なのだろうか。ポストモダンの徹底がアジアにも到来していることを証明することをもってFT3の主題とするならば、90年代のアジア作家に見られたような、自らの社会において作家としてのアイデンティティを追求するという姿勢を、たとえばベトナムのティファニー・チュンや中国のヤン・ジェンジョンら、とりわけ東・東南アジアの作家たちが 放棄ないしは相対化していることも頷けるのである(この点、社会問題へ高い関心を持つ南アジアの作家たちと対照的である。その意味でアジアは多様化ならぬ多重化が進んでいるのだろうか?)。むしろ日本の作家のほうが、そうした社会における「美術」あるいは「作家」のあり方や位置について自覚的になってきたのかな、と思う(以前なら完全に逆だった)。版画という表現メディアに備わるメッセージ性に注目し、イラク戦争をモチーフとした山口啓介。映像というメディアの原理に注目しつつ、そこに日本の現代文化への批評的視点を持ち込む伊藤隆介(わずかな手つきで最大限の効果を得ている彼の作品は、例えばヤン・フードンら中国人作家の手の込んだ派手な映像作品と強烈なコントラストをなす)。アイデンティティの不安(放棄や相対化、ではなく)を構築性の高いインスタレーションで示す塩田千春。そして自らを育んだ文化的バックグラウンド(この言葉を日本人作家に使うことになろうとは……)を大胆かつ素直に表明する角孝政……ただそれが会場内で際だった相違として見えるわけではない。なんらかの相似点が、全く関係のない作家同士に見え隠れして、全体として緩やかなつながりや連関を見せているので、展覧会としては過去のFTの中でもっともまとまりがよく、かなり楽しめる内容になっている。作家の交流プログラムも多彩だが、これはまだ別の機会に。
 さて、今年は戦後60周年ということで、アジアの作家の中に、もっとそういうテーマを前面に出してくる作家がいるかと思いきや、若い世代の作家を中心としたセレクションということもあってかあまりそんな雰囲気ではない。これを補う形となったのが、福岡の企画ギャラリー、モマ・コンテンポラリーで開かれている、オフィスゴンチャロフ企画による「nippon」展である。岡本光博、中ハシ克シゲ、藤浩志、セカンド・プラネットの4作家で構成されたこの展覧会の趣旨は、まさに太平洋戦争そのものである。しかし、ここには重苦しい雰囲気は皆無だ。セカンド・プラネットの「Men's YAMATO」は、あの戦艦大和がモチーフだが、その映像に映るのは、映画「男たちの大和」に使用された、尾道市に設置された実物大の大和のセットである。映画から離れてみれば、「セット」というのはいくら実物大でもかなりうそっぽい。中ハシの「震電プロジェクト」はかつての「ゼロ・プロジェクト」の延長線上にあり、プラモデルの拡大接写撮影により実物大に拡大された「写真」の展示。この「震電」は戦争末期に開発されたがついに実戦参加することのなかった幻の戦闘機。かつて福岡市の「九州飛行機」で開発され、今の福岡空港で試験飛行が行われたこの飛行機に今回中ハシは注目した。岡本は沖縄でのフィールドワークを元に、ブラックユーモアに満ちた絵画とオブジェを出品。藤は今年初めに福岡市美術館での個展で出品した、廃棄物でつくりあげた飛行機型オブジェ「Cross?」をアレンジして出品。いずれも共通するのは、主題とはかけはなれた作品の見え方の「軽さ」である。結局これが戦争を知らない戦後世代の若い作家の「戦争」のリアリティの現れなのではないか? しかし彼らはそのことを十分自覚した上で、自らの経験に即して表現しているように思えた。中ハシの「震電」は今回はデモンストレーション的な展示で尾翼の一部のみを再現した物となったが是非福岡でその全貌を見てみたい。

会期と内容
●第3回福岡アジア美術トリエンナーレ
テーマ:多重世界 
会場:福岡アジア美術館 福岡市博多区下川端町3-1 リバレインセンタービル7・8階
Tel. 092-263-1100
会期:2005年9月17日(土)〜11月27日(日)
開館時間:10:00〜20:00
休館日:毎週水曜日(水曜が休日の場合はその翌平日)

学芸員レポート
上前智祐
柳幸典展チラシ
上:公開制作中の上前智祐
下:柳幸典展のチラシ
 アジア美術館が楽市楽座に沸いている頃、実は福岡市美術館ではひっそりと(?)公開制作が行なわれていた。戦後日本の前衛美術運動として世界的に知られる「具体美術協会」の元メンバー、上前智祐氏が来館し、9月18日、19日と2日間にわたり公開制作を行ったのだ。2003年、04年と2カ年にわたり、上前さんご本人、そして宮崎市の藤野忠利さんから上前さんの版画作品を多数当館にご寄贈いただいたのである。それを記念して、当館では8月30日〜10月2日の会期で常設展示室内の企画展示室にて「上前智祐と具体美術協会」展を開催。これにちなんでのイベント開催となった。派手さも衒いもない上前さんの淡々とした制作態度は、ともすれば嶋本昭三や白髪一雄など、派手なアクションや目立つキャラクターの持ち主たちの間に埋没しがちであったが、具体結成から解散の頃まで在籍したれっきとした主要メンバー。時流に流されず、ひたすら我が道を追求し続けた末の大量の絵画、版画、そして飽くなき実験精神は85歳を迎えた現在も全く衰えていない。とはいえ、本人は至って地味で純朴なお人柄。公開制作といっても地味に屏風を仕上げていくだけでそこにはなんのスペクタクルもない。しかし、「戦略を練り上げる」ことが作家の間で主流となり、スペクタクル性を競いあう国際展の状況からすれば、この上前さんの地道な、しかし着実で誠実な態度がかえって過激にうつってくる。ご寄贈いただいた版画の制作を始めたのは60歳の頃、そして今もエッチングの習得のため学校に行っているとのことであった。広報不足であったにもかかわらずのべ100人ほどの方々が見学し、大阪からお越しくださった方々もおられた。同じく元具体メンバーであった高知県の高崎元尚さんや、故・松田豊氏の奥様、昌子さんらも駆けつけていただき、また懇親会の場では、元九州派の田部光子さんや山内重太郎さんが、前衛の時代からの時空を超えて交流した。そして全体を取り仕切っていただいたのは「具体」の末期に具体美術展に出品して作家と今でも深い交流のある藤野忠利さん。みなさんお疲れ様でした。
 さて(まだあります)、この上前展の後に、当館では「第7回21世紀の作家−福岡 柳幸典展」が始まる。彼は現在福岡市郊外の糸島郡二丈町に住んでいるが、最近の関心は「飛行」。ハングライダーをモチーフとした新プロジェクトの発表となるようだ。現時点では全容は実は私にもよくまだわからないのだが、どんな展覧会となるのか?
 当館ではこのほかに、特別展として「高取焼」展を開催中。近現代美術のコレクションも前回のレポート時より大幅に展示がえを行った。そのほか、展示以外でも様々な試みがあっているが、この詳細は、次回に回したいと思う。
会期と内容
●上前智祐と具体美術協会
会期:2005年8月30日(火)〜10月2日(日)
会場:福岡市美術館
福岡市中央区大濠公園1-6 Tel. 092-714-6051
開館時間:9:30〜17:30(入館は17:00まで)
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の際は、翌火曜日が休館)

第7回21世紀の作家――福岡 柳幸典展
会期:2005年10月5日(水)〜12月27日(火)
会場:福岡市美術館

[やまぐち ようぞう]
札幌/鎌田享福島/伊藤匡東京/南雄介大阪/中井康之山口/阿部一直|福岡/山口洋三
ページTOPartscapeTOP
DNP 大日本印刷 ©1996-2007 DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd.
アートスケープ/artscapeは、大日本印刷株式会社が運営しています。
アートスケープ/artscapeは、大日本印刷株式会社の登録商標です。
artscape is the registered trademark of DAI NIPPON PRINTING Co., Ltd.
Internet Explorer5.0以上、Netscape4.7以上で快適にご利用いただけます。