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「平成の大遷座祭斎行記念 金刀比羅宮のすべて―奥書院特別公開―」展
高松／高松市歴史資料館 毛利義嗣
琴平宮のある象頭山のふもとから、にぎやかな表参道ではなく、裏参道と呼ばれている山道をごそごそ登って、「金刀比羅宮のすべて」展を見に行きました。同じ香川県内に住んでいてもそんなに度々訪れるわけではなく、前回来たのは大原美術館との交換展が開かれていた時で、道のあちこちに雪が残っていた季節、登り切るとちょうどよく体が温まったものでしたが、今回は秋だというのにまだまだ暑くて汗まみれになり、展覧会場へのアプローチとしてはおそらく最も体力を使うものであるなあここは、と思いながら歩いたものです。
このルートだと最初にたどり着くのが学芸参考館です。安堵感と疲労からか、明治期の琴平で開催した展覧会の出品作や、様々な奉納品などが大量に並べられているのを呆然と眺めながら、早くもお腹いっぱいな気分になってきたのですが、ここがゴールではないので先に進まなければなりません。
宝物館、ここにもまたたっぷりとお宝が。古い木製の展示ケースのガラスがいい感じに波打っています。ボーっとしていたい気持ちがますます強まってきますが、ここはとりあえず先を急いで、今日の第一目標である書院に向かいます。ふもとの駐車場で貸してくれた杖がとても役に立ちます。
表書院にある円山応挙の障壁画、ふだんはガラス越しに遠目にしか見られないのですが、会期中は室内から観覧できるということで、とはいいながらそれほど近くには寄りづらく、順路に従ってぞろぞろと歩いていきました。奥書院の若冲や岸岱の襖絵も室内から見ることができ、一部は取り外して別に展示されていました。これは見やすくてよかった、ということで一応の目的を達したので一安心です。知り合いの琴平生まれのギャラリストによれば、子供の頃はこの書院の座敷にも勝手に入り込めてよく遊んでいたということです。何だかすごいことです。
ぐるりと書院を回って後ろを振り返れば、さっぱりと整えられた四角い庭が広がって、展覧会関連の催し物のために若者たちが元気に舞台を組み立てています。その横で、大勢の参詣者というのか観覧者というのか、老若男女が気ままに立ったり座ったり歩いたりしつつ人生の時間をつぶしていて、これが豊かさというものかなあと、なぜか遠い目になったりしますねこういう場所では。このまま本宮まで登っていけばもっと豊かになれたはずなのですが、根性がないので降りにかかります。大人になってから本宮まで登ったのはもうずいぶん前に一度あるだけで、その時は高松に講演に来てもらっていた平岡正明さんといっしょでした。熱心にお祈りされているので何を願ってたのですかと尋ねると、「世界革命」だと真顔で。今は昔です。われわれはいったいどんな革命を願ったらいいのでしょうか、などとまた遠い目に。
さて、あとは高橋由一館と金毘羅庶民信仰資料収蔵庫を残すだけです。こちらの方はいわばギャラリーなので安心です、というより不安です。さんざん見知ったはずの白い壁と四角い空間のキツさに心が緊張してきます、ナイーヴなものです。でも、この緊張感が私たちにとっての美術館そのものであると一方では感じてもいます。豊かであるとさえ思ってしまう空間から離れて、というよりもあらかじめ奪われたかたちで始まり、時を経るにしたがってますます殺伐となっていく囲われた（比喩ですよ）空間を抱えて孤独に増殖してきた美術館、とても不自由で不自然な場所。にもかかわらずですね、そうした不自然さは今生きている私たちにとってはすでに身体の一部となっていて、それだけを取り外すことはできず、豊かさを憧れることはできても豊かさになることは無理で、むしろ不自然さを消すことが豊かさの根拠さえ消すことになる、それもまた強く不安なことだなあなどと、せっかくの由一展をみながら、正直うわの空で考えていました。
天気がよかったので帰り道、琴平の周辺はうまいうどんの産地でもあるので、すっかり観光気分で、まだ入ったことのなかった近くの有名なうどん屋に行こうとしたのですが、暑い中、もう午後も遅いのに何十人も並んで待っているのを見て無言で通り過ぎました。これもまた豊かなことです。
会期と内容
「平成の大遷座祭斎行記念 金刀比羅宮のすべて―奥書院特別公開―」展
会期：2004年9月17日（金）〜12月12日（日）
会場：金比羅宮 奥書院、表書院、社務所別館内ギャラリー、宝物館、学芸参考館
URL：
http://www.konpira.or.jp/
香川県仲多度郡琴平町892−1
Tel. 0877−75−2121
[もうり よしつぐ]
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