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丸山隆彫刻展
北海道/札幌芸術の森美術館 吉崎元章
2002年8月30日、札幌でひとりの彫刻家が腎臓ガンのためこの世を去った。通夜には、47歳という早すぎる死を惜しみ、会場に入りきらないほど大勢の人が集まった。長野県出身の彼が31歳で北海道教育大学札幌分校(現・札幌校)の彫刻教諭として札幌に赴任して18年。北海道で展開した活動を通して、完全に多くの人々の心をつかみ、北海道の美術界にとって大きな存在になっていた。没後2年を経て札幌芸術の森美術館で開催中の展覧会は、そうした彼の作品61点を集め紹介するものである。
今振り返ってみると、丸山隆が札幌に来た1985年を境に、北海道の彫刻が大きく変わりはじめたと改めて感じる。教え子らを中心に若い彫刻家たちの表現の質が明らかに変わったし、パブリック・アートのあり方もちがってきた。彼ひとりの力だけではなく、その後に着任した教師陣や世界的なパブリック・アートに対する考えの変容もあっただろうが、それまで北海道にはなかったスタイルを持ち込んだ彼の刺激がかなり大きかったのも確かである。北海道では最も古い歴史と規模を誇る道展において初出品でいきなり北海道美術協会賞という最高賞を受賞し、会友を経て1987年には最短で
会員になるなど、彼は最初から注目と期待を集めていた。東京芸術大学および大学院で学び身につけた最新の彫刻の息吹。学生達には彫刻に対する概念を含め、デフォルメを効かせた人体表現や、北海道ではあまり制作されていなかった石彫を熱心に指導し、それぞれの個性を的確に伸ばしたことは、その後の教え子たちの活躍を見ても明らかであろう。また、短い間ながら北海道内に31点もの作品を設置している。なかでも道内の5人の彫刻家によって彫刻家集団「CINQ」(サンク)を結成し、石切場跡をその歴史と空間の持つ圧倒的な場の力を最大限に生かしながら見事に公園として再生した「石山緑地」は、イサム・ノグチによるモエレ沼公園とともに札幌が世界に誇るアート空間だと私は思っている。
彼の作品でいつも感じるのは、見えない力への興味である。大地が気が遠くなるほど長い時間をかけてゆっくりと移動する力、万有引力や磁場のように場に及ぼす力。形のゆがみが発する緊張感を通して、不可視の力を視覚化しようとする仕事といえるかもしれない。
ガンが進行しすでに死期を悟っていた彼の最晩年、健康な体であっても考えられないほど精力的に大作を次々と発表していった。鉄板や鉄線を用いたそれら大作は、インスタレーションであったりその大きさ故に解体され、一部倉庫の壁面などに流用され現存しないのは残念であるが、それでも今回の展覧会には、現在展示可能な状態の重要な作品のほとんどを集めることができたものと思う。長く大学の草むらやアトリエの屋外に放置されていた作品は、教え子の手できれいにされ、シャープな造形が制作当時に近いかたちで甦って展示することができた。
彼が妻に言い残したのは、作品集をつくること、テキストは吉田豪介氏に書いてもらうこと、表紙はかっこよくということだったそうである。それは展覧会図録という形で実現したが、巻末に掲載した211点の作品総目録を見ると、自らが生きた証を、作品を通して、それも公共空間に置かれた作品で、残し続けることができる彫刻家は、ある意味幸せなのかもしれないとつくづく思った。
北海道の美術に大きな足跡を残した丸山隆という彫刻家を改めて心に刻むために、多くの人にぜひ見てもらいたい展覧会である。
会期と内容
●丸山隆展
会場:札幌芸術の森美術館
札幌市南区芸術の森2丁目75 Tel. 011-591-0090
URL:
http://www.artpark.or.jp
会期:2004年10月17日(日)〜12月5日(日)
休館日:11月7日までは無休 11月8日以降は月曜休館
開館時間:9:00〜17:00(入館は16:30まで)
観覧料:一般700円、高大生350円、小中生140円
[よしざき もとあき]
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