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学芸員レポート
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「2005年日本国際博覧会(愛知万博)」/「ヤノベケンジ―キンダガルテン」
豊田/豊田市美術館 能勢陽子
「これだけ自由に、現代作家を大量に起用する試みは、万博史上初めてであろう」と海外プレスが驚嘆したという1970年の大阪万博は、まさに具体やネオダダ、反芸術など、戦後日本の前衛芸術の総括的な発表の場となった。アジアで最初の万博という自負を持ち、高度経済成長只中にあって、日本の戦後復興を知らせる任も負っていた大阪万博。それから35年が経過し、海外旅行も一般化して、かつてなら万博でしか体験できなかったような外国や未来世界も望めばすぐそこにあるような現在。「万博の時代は終わった」といわれる今、かつてのような期待や熱狂は望むべくもないけれど、日本で2回目となるこの愛知万博では、アートに対するどのような取り組みが行なわれたのだろう。
 アートプログラム事業「幸福のかたち」では、名和晃平、澤田知子ら、国内外7作家が各グローバルコモン(国際出展ゾーン)にそれぞれ作品を設置した。スイス館にはピピロッティ・リストのビデオ作品があったし、イギリス館には8名の作家の作品が展示されていた。またローリー・アンダーソンやロバート・ウィルソンといった大物作家が大規模インスタレーションを手掛けている。「人類の進歩と調和」を謳った大阪万博開催時には、すでに環境汚染や核兵器など深刻な問題が背後にあり、未来のテクノロジーがそれらを解決してくれると信じられた21世紀が必ずしも望ましい姿ではないことを知っている現在、楽観的な進歩史観は取れるはずもなく、今回のテーマは過去や周囲に参照できる「自然の叡智」に決まった。それでも「幸福のかたち」は、どこか大阪万博を思わせる未来に向けられた多幸的イメージを元にテーマ設定されているようで、テーマパークのような会場の中、それぞれの作品が妙に収まり良くみえ、アートとしての存在感を発揮していないように感じられた。愛知万博は振返ってみた時、大阪万博のように芸術がある時代のエネルギーを確かに伝えるような強さは持ち得ないだろう。最初からそれは目論まれていないといってもいいかもしれない。それでも、「自然の叡知」というテーマを自国の状況と照らし合わせながら提示した各国パビリオンの中には、興味を引き付けられるものがあった。
 ガーデニング大国イギリスのパビリオンでは、自生植物からなる庭の中に、アンニャ・ガラッチオ、コーネリア・パーカー、リチャード・ウッズ、ロス・シンクレアらの作品が展示されていた。生花を用いて生物が腐敗していく様を提示することで知られるガラッチオは、1本の潅木の上に花や苔を生育し、それだけで一つの小さな庭のような作品を制作していた。ウッズは、草花がプリントされたピクニック用ビニールシートを設置し、自然と人工の境界を示していた。なかでも興味深かったのは、シンクレアのアメリカ先住民のトーテムポールを用いた、自身の家族のファミリー・ツリー(家系図)である。某新聞には、「家族のまとまり、家族の大事さを訴えていることが伝わってくる」と記してあったが、シンクレアの真意はもっと複雑だろう。この作品は、国や民族を象徴する記号をわかりやすく画一化し、それを世界的な共通認識として流布してしまう万博に対する批判であり、西欧人により解体させられた文化的アイデンティティに、西欧人である作家自身の家系図を重ねてしまうことで、国家や家族制度に対する問いを促しているのだろう。トーテムポールには、「ここに座ってね」という言葉が掲示され、奇妙なアートのテーマソング(?)のようなものも流れてくる。極めてあやしいにもかかわらず、万博を訪れた家族連れの絶好の撮影ポイントとなっていたのは、なんだかおかしな光景であった。
 帰り道の途上にある池では、夜8時から舞台演出家ロバート・ウィルソンのイヴェント「こいの池のイヴニング」が行なわれていた。「日本の自然」と「循環型社会」を象徴する池の中央から、「森の使者」であり「自然共生」のシンボルである巨大な「スノーモンキー(日本猿)」が現われ、一大ショーを行なう。リアルな巨大猿が、美しい声で子守唄を歌う姿は、なんとも無気味である。ウィルソンは、アートやパフォーマンスの文脈でも知られる、ワーグナーの現代的後継者と言われる人物だそうである。確かにこのようなショウ(巨大日本猿のオペラ)は見たこともなく、これまでにない新たなイメージであることは確かである。しかし、この余りに大掛かりな装置を用いて次々に展開されるイメージのあっけなさは、そこになにをみれば良いのか、観ている者を困惑させる。イメージの羅列はスペクタクルの王道だけれども、広い万博会場を歩き周った後で展開されるこれら大量のイメージには、観ている者も疲労感と虚脱感がないまぜになった気持ちになってくる。しかし、これが一大スペクタクラー、ウィルソンの目論見かもしれない。改めて万博について考えさせられながら会場を後にした。

会期と内容
●正式名称:2005年日本国際博覧会(略称:愛知万博、愛称:愛・地球博)
会期:2005年3月25日〜9月25日
開催場所:愛知県長久手町・豊田市、瀬戸市
愛・地球博公式サイト

学芸員レポート
ジャイアント・トらやん製作中
「ヤノベケンジ―キンダガルテン」がオープンした。ヤノベ氏は幼少の頃大阪万博の廃虚で遊んだことが、現在の制作に繋がっているという。最近では、自身の子どもたちのために制作を行っており、本展では子どもの味方ロボット「ジャイアント・トらやん」、巨大ロッキング・マンモス、子どもの核シェルター「森の映画館」が並ぶ。訪れた子どもたちも楽しそう。ぜひご覧ください。

会期と内容
●「ヤノベケンジ―キンダガルテン」
会期:2005年6月24日(金)〜10月2日(日)
会場:豊田市美術館 愛知県豊田市小坂本町8丁目5番地1 Tel. 0565-34-6610
休館日:月曜日(7月18日、9月19日は開館)
開館時間:10:00〜17:30
夏休み期間中の土曜日(7月23日・30日、8月6日・13日・20日・27日)は19:30まで。
※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般:500円(400円)、高校・大学生:400円(300円)、中学生以下無料
( )内は20名以上の団体料金

[のせ ようこ]
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