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学芸員レポート
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ニキ・ド・サンファル展
豊田/豊田市美術館 能勢陽子
ニキ・ド・サンファル
ニキ・ド・サンファル
「草間には愛がないけれど、ニキには愛がある」とある作家が語っていた。どちらの作品に愛があるのかということは私には判断できないのだけれど、そのとき、人生でとても大切なもののはずなのに、正面切ってその問題を扱う作品は、特に現代美術においては、案外少ないように思われた。もちろん作家の性別を問わずに。しかしニキ・ド・サンファルの作品には、自身の体験に基づく様々な愛を確かに感じることができる。

 本展では、これまであまり目にする機会のなかったシュプレンゲル美術館所蔵による初期の絵画数点から始まっている。ニキは正式な美術教育を受けたことはなかったが、極度の神経衰弱に陥り入院した病院での療法として絵を描いた際に、自身を救済するためには芸術家になるしかないと決意したという。初期の絵画には、自身の家族や日常の1コマなど、その後の作品に通底する制作に対するセラピー的な態度、自身の体験との密接な結びつきを伺うことができる。

 その後ニキを一躍有名にしたのは「射撃絵画」であり、これによりヌーヴォー・レアリストの仲間入りを果たすことになった。この着想のもととなったのは、《聖セバスチャン、あるいは私の愛人のポートレート》(1961)であり、本作も射撃絵画と並んで展示されている。これは当時恋愛関係にあった男性のワイシャツ、ネクタイを貼り付けたカンバスの頭部にダーツを取り付け、観客に矢で射させるというものであった。ニキはこの作品を通じ、この男性から精神的に解放されたというが、その後標的は父親、父親に象徴される家父長制社会、教会、出産する女性などに移っていく。それらを射撃する行為は、抑圧から自己を解放するためのものであったというが、それは観者にとっても同様の作用をもたらすものであり、ニキのパフォーマンスは荒々しく、同時に華麗で、魅惑的なものであった。ニキが「私は一度も神に向かって撃ちませんでした。私は教会に向かって撃ったのです」と語っているように、そこにはアンビヴァレントな愛も含まれていたのである。

 1965年の個展「ナナ・パワー」以降、カラフルに彩られたふくよかな女性がのびやかに踊る「ナナ」の巨大な彫刻シリーズが制作されるようになる。ニキと聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、この作品だろう。ニキのこれまでの抑圧された女性像とは異なり、ナナのふっくら妊娠した体で伸びやかに躍る姿は、そのまま生命賛歌、産む性としての女性賛歌のモニュメントと受け取ることができる。 ティンゲリーとの共作において見られるように、ニキの作品には恋愛における喜びや葛藤がそのまま反映されている。しかし恋愛感情は、移ろいやすく、もろく、取るに足らないものとして、芸術に取り上げるものとしては軽んじられるきらいがあり、ニキについてもそうした点から過小評価されているところがあるようである。しかし、それをそのまま躊躇することなく制作の源にしていくニキの作品には、恋愛の喜び、苦悩に始まり、すべての人間に対する愛に繋がる、生に対する肯定的な強さを感じることができる。本展のカタログ・テキストは、ニキ・ド・サンファルの芸術を、特に私生活に偏ることなく、総体的に、深く理解することのできる、優れたものであった。

会期と内容
ニキ・ド・サンファル展
会場:名古屋市美術館
愛知県名古屋市中区栄二丁目17番25号(白川公園内) 
TEL. 052-212-0001
会期:2005年6月17日(土)〜8月15日(火)
開館時間:9:30〜17:00 金曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
※7月17日(月・祝)・8月14日(月)は開館、7月18日(火)は閉館

[のせ ようこ]
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