震電プロジェクト/ボックスアート展 |
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福岡/福岡市美術館 山口洋三 |
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「震電プロジェクト」は、6月11日より予定通りスタート。展示場所や映像記録編集などにめどがたたないが、とりあえず組み立ててしまえ! というわけで、快調にスタート。連日大にぎわい……というわけではないが、地元新聞各社も好意的に情報を掲載してくれるおかげで、仕事が進む程度には毎日だれかが来てくれる。本当にありがたい。中ハシ克シゲさんも大喜びで、滋賀での個展のてこ入れに向かった。さて震電プロジェクトの進行状況は、HPの「最新情報」、あるいは、http://j7w1.exblog.jp/でブログにとぶことができるので、是非ご覧ください。
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さてアートスケープ的なネタとしては、この震電プロジェクトが、微妙に「九州派」とかすっているあたりのことを書くのがふさわしいだろう。
考えてみれば九州派の作家たちは今、みな70─80代。戦中派なのだから福岡で開発された「震電」のことを知っている人くらいいるだろうと容易に予想されるが、うかつにも2つは私の頭の中でリンクせず。
そのうち、初期九州派に所属した山内重太郎さんから「いやー、私、実は飛行機少年でして……」とご連絡がはいってびっくり。なんと昭和20年8月当時、旧・蓆田飛行場(現在の福岡空港)に、勤労動員されていて、震電の飛行実験も目撃していた! しょっちゅうお会いしていて、そのたびに「九州派」のことばかり話していた。こういう「余談」もしておくべきだなあ。
さてその山内さん、震電プロジェクトの制作が始まると、かなりの頻度で会場を覗きに来られ、そのたびに友人の詩人の方を紹介くださったり、新しい情報を提供してくださったりする。トークにも参加していただいた。すっかりお世話になっています。
さてそのような戦中派の方々、もちろん今も旺盛な制作活動をされていて、新作の個展を開く方もいる。その1人が、山内さんと同じく元九州派の尾花成春さん。矍鑠としておられ、背筋もすっとしてお元気な80歳。アートスペース貘で、今までとがらっと違った新作絵画を披露。今回は肩肘張らないで描いていたら、どんどんイメージが広がった、とか。
今までとかなり違った新作絵画を披露。今回は「現代美術家」の肩書きや気負いに囚われずに肩肘張らないで描いたとのことだったが、そうするとどんどんイメージが広がった、と大変ご満悦の様子であった。
今までの尾花さんといえば、色数を極力少なくした画面に、筑紫平野の風土性を織り込んだ、どちらかといえばミニマル絵画的なものが多かったように記憶している。今回もその方向性は変わってはいないようだが、これまでよりもマチエールが豊かで、イメージとも非イメージともつかない不定形のフォルムが黒の下地に浮遊するような作品多数。7月9日まで福岡市美術館で開催中の「九州派再訪-1」にも2点の作品が出品されているのだが、それらの作品と見比べてみれば、今回の新作の色調や雰囲気は九州派時代の初期の作品に近くなったような印象をうけた。しかし九州派時代の代表作「黄色い風景」(1959─60年)は、ゴミや廃品、アスファルトを用いた気迫溢れるオールオーバーの画面。これに対して新作では、たしかにそういった気負いは後退しているものの、なにかがこれから画面の中で始まるのでは、という予感を感じさせる。うーん、80歳の作家の作品に予感を感じたとは。若い作家の作品に「予感」を感じたことなど最近あまりないなあ。 |
これも震電とつながりそうな展覧会が「ボックスアート」展。チラシに「田宮模型編」と書かれていた。さて企画に関わったモマコンテンポラリーの中村さんから、田宮本社からプラモデルの箱絵の原画をもちだすことのご苦労は聞いていた。展覧会への出品はこの機会が初めてらしいが、展示を見ると、意外とあっさり。原画を見ながら思ったのは、たとえば「写真集」を見てある写真をすばらしいと思い、展覧会でその写真を実際に見ると、印刷物のほうがよかった、という経験にどこか似ているような気がした。うーん原画というのは見せるのがむずかしいなあ。
ところで、この展覧会の章解説に出てくる「欲望」についてはちょっと違和感をもった。模型史の流れを俯瞰する上で、消費者の夢や憧れがある意味「共通項」として機能してきたことはわかるのだが、それはあくまで箱絵の描かれた「模型の中身」に現れるのではなかろうか。つまり、模型のできの悪さ(本物とあまりにもかけ離れている姿)への失望を箱絵(の表す情景に消費者が勝手に想像する物語)で補完する、という時代から、現代ではそのギャップがあまりなくなってきたどころか、箱絵を模型の中身(のできの良さ)が凌駕するに至っている、というのが実情だろうから、箱絵の原画で(それもタミヤだけで)その主張をするのは無理があるなあと思った。やっぱりガンダムまでみなくては。それから「震電」とか幻の兵器や米軍のステルス戦闘機が実態が明らかになる前になぜか「模型化」されたこととかも。そのことは、この展覧会から発展的に企画される、「ボックスアート プラモデルパッケージと戦後の日本文化」展(大分市美術館)で明らかにされることを期待したい(いや、コレは確かあらぬ方向に矢が飛ぶらしいな)。
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この原稿を書き終わると同時に、私はドイツ・ケルンへ出張。サッカーに浮かれているころだろうが、私あんまりサッカーは好きではないもので・・・。次回のレポートで詳細をご報告します。時間の都合で見られずレポートできなかった福岡県立美術館「アートの現場vol.18」、福岡アジア美術館「ベトナム近代絵画展」も次回ということで。あ、福岡市美術館でも「横山大観」だ。 |
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