artscape編集部からこの学芸員レポートへの寄稿のお話をいただいたとき、四国エリアを中心としてということだったと記憶している。なのに担当展の準備等々で、職場から最も近い琴平・金比羅宮で開催中の「書院の美」すらまだ見に行くことができずにいて、今回もまた他エリアのレポートをお伝えすることになってしまった。
という訳で旧聞になってしまうのだが、先月広島市現代美術館へ行ってきた。福岡市美術館で立ち上がった「大竹伸朗展──路上のニュー宇宙」が巡回してきたこともあるのだが、ほかにもスタジオ企画展の「しりあがり寿──オヤジの世界」、また収蔵作品展「MONEY TALK」が開催されていたこともあり、これは見逃せないと海を渡った次第。大竹伸朗展については企画者である福岡市美術館の山口洋三さんから、またしりあがり寿展についても広島市現代美術館の角奈緒子さんからレポートされていたことと思うので、ここでは「MONEY TALK」を取り上げたい。
これまでにも同美術館では確か椹木野衣さん、北澤憲昭さんをゲスト・キュレーターに招き常設展を見せていたと思うが、今回の収蔵作品展は、上野の森美術館、水戸芸術館の学芸員を経て現在フリーのキュレーターとして活躍中の窪田研二さんをゲスト・キュレーターに招き、「芸術と経済の問題」をテーマに企画されていた。その内容は、コレクションから約90点を選び、その作品購入価格を明示し、寄贈作品、寄託作品を含めて100万円未満から5,000万円以上まで全9段階の価格帯別に分けて展示するというもの。あわせて村上隆、クレメント・グリーンバーグといったアーティストや評論家等々による「芸術」「経済」「価値」にまつわるテキストが掲出されていた。購入価格が展示室内で公開されているというのは、他美術館を含め初めてではないだろうか。こう書き進めるとなかには眉をひそめる方もいらっしゃるかもしれないが、この「マネー」は芸術と密接な関係性を有するのは確かだが、芸術の商品化を宣言するものではない。展覧会を通してみれば、現代美術を理解するツールのひとつとして企画者が選んだものであるということがわかるだろう。実際、窪田さんはその意図について「本展はタイトルを『マネー・トーク』としながらも、『芸術と経済』の問題とともに『芸術とは何か?』、『美術館の役割とは何か?』といった正解の見えづらい困難だが重要な問いを発しているのだ」と述べている。
近年、多くの公立美術館は予算を削減され、作品購入予算も同様に激減し、数年間にわたり購入が中止となっている館も少なくないと聞く。今日のマーケット上での実勢価格とは若干のずれもある購入当時の金額への疑問や寄贈・寄託といったコレクションの方法を知る。鑑賞者が、どのようにその美術館のコレクションが形成されてきたか、美術館がコレクションをする意義とは何か、ということを考えるよい契機になってくれればと思った。特別展に比べて、ともすれば見過ごされがちな常設展であるが、美術館側が鑑賞者(住民)に対してこのような場を提供する努力を行なうことこそが、理解を得、存在意義を高めていくとともに生き残る術となるのではないだろうか。
提供=広島市現代美術館
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「ゲスト・キュレーターによる収蔵作品展 MONEY TALK」展示風景 |
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