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学芸員レポート
札幌/鎌田享東京/住友文彦|福岡/山口洋三
「メッセージ2007 南九州の現代作家たち」展
福岡/福岡市美術館 山口洋三
河口洋一郎《ジェモーション》
児玉幸子《脈動する-壁に耳あり(移送空間)》
高嶺格《憂鬱のアンギラス》
高嶺格のレジデンス活動
キ上から
・河口洋一郎《ジェモーション》
・児玉幸子《脈動する-壁に耳あり(移送空間)》(竹野美奈子との共作)
・高嶺格《憂鬱のアンギラス》
・高嶺格のレジデンス活動の様子
写真はすべて都城市立美術館提供
 鳥インフルエンザ騒動に、東国原英夫(そのまんま東)氏の知事就任と、ここのところ話題の絶えない宮崎県。その新知事の出身地・同県都城市にある都城市立美術館が開催している開館25周年記念展「メッセージ2007 南九州の現代作家たち」展は、出品作家9人の小さな展覧会ではあるが、絵画あり、映像あり、滞在制作ありの多彩な内容だ。これはいわゆる「地元作家」に焦点をあてた展覧会であり、内容はそれぞれ違えど、おそらくどの地方都市にある美術館も数年に1度は開催するタイプの展覧会であろう。
 ところで「地元作家」とか「地方作家」と聞いて、アートスケープ読者はどんな美術家を想像するだろうか。某公募団体の地方組織の中で居場所と発表場所を確保し、師匠筋の作家の作風をアレンジしたような作品を制作する人? あるいは、まあたしかに「現代美術」的ではあるが、いまひとつあか抜けない作品で、とりあえず国内美術最新動向に1ミリでも接してはいるつもりの(でも他人からみると全く接点のない)作家だろうか?(なんだそりゃ??)東京で生まれて東京で活動する作家には決して付きまとうことのない「ローカル」という呪縛。「九州派」のころであれば、この「ローカル」さを「差異」として逆提示することもできたのだが、国内津々浦々が「日本景」(大竹伸朗)と化してしまった今日では、それはギャグにすらならない(地方の問題は以前の九州派の記事で書いたからそちらも読んでください)。
 しかし美術館としてはそんなこともいっていられなくて、美術館の存する地域の美術史ないしはゆかりの美術家をとりあえず押さえておくことは、美術情報センター機能としては重要な責務である。しかしその一方、なにもしょっちゅうそんな展覧会をしなくてもいいのでは、と(個人的に)思う。ローカルな文脈をしっかり尊重しつつ、観衆に向かってはその文脈外のものを提示する機会も必要なわけで、でないと観衆も美術家も育っていかないし、もし育たなければ、それが美術館の死命を制することにもなりかねない……。
 さてそれで「メッセージ2007 南九州の現代作家たち」展であるが、この展覧会は上記のローカルの呪縛をうまく回避しているように見受けられた。ここでいう「南九州」とは、都城を中心とした、宮崎・鹿児島地域を指す(都城を地図で見てもらえば判るが、南側が鹿児島県に接しており、古くは薩摩藩の私領のひとつであった。そのため鹿児島地方と縁が深い)。本展では、単にこの地域を拠点にしている作家だけでなく、本地域出身で、現在は東京や他の都市を活動拠点としている作家たちも出品している。デジタルアートの大御所的存在となった河口洋一郎や、現代絵画の赤塚祐二(2人とも鹿児島出身)など、実力のある作家の作品があまり大きいとは言えない会場をにぎわせていた。児玉幸子(鹿児島出身)は、不勉強ながら本展で初めて知った作家であったが、《磁性流体》とよばれる、電気信号を送るとその瞬間に磁性を帯びるという物質を用いた作品はなかなかユニークだった。手をたたいたり声を出したりすると、皿の中にある磁性流体は飛び跳ねるというインスタレーション作品は、科学的な仕掛けや原理以前に、単純な「体験する喜び」がある。これは河口の作品のひとつにも言えることで、観客の身体の動きに呼応して映像が変化する作品は、単純に楽しい。先端的な科学技術が作り出すいわゆる「メディアアート」のぎこちなさとか、技術がやたらと鼻につく作品は多々あるが、この2人の作品にはそれが全くなく、そのことが観客と作品の間の敷居を低くしているように見受けられた。また、これまた初めて知ることとなった壱岐紀仁は、すでにNHKの番組などで活躍している映像クリエーター。美術家ではないのだが、その映像の洗練さは「美術家」の作品にはあまりないものだ。こうした作品のエンターテイメント的側面を、多くの美術専門家たちは過小に評価する傾向があるが、しかしこうした側面は、現代美術展に接する機会の少ない「南九州」という文脈においては、現代美術初心者に興味を持ってもらうために必要な「間口のひろさ」である。確かに現代美術は多様化してはいるが、果たして「間口のひろさ」はどうだろうか。
 特筆しておきたいのが、高嶺格(鹿児島出身)の滞在制作だ。おそらく本展の中心に位置する作家となっている高嶺は、展覧会会期1カ月前に都城入りし、ある民家を借りて滞在制作を行った。残念ながら私はその滞在中に訪問することはかなわなかったのだが、できあがって展示された作品は、現在解体の是非が議論されている都城市民会館(1966年竣工、菊竹清訓設計)を主題とした映像インスタレーション作品である。この市民会館、約40年前の設計とは思えない斬新な外観を持った建物で、穏やかな町並みの中に一際異彩を放つ。滞在制作中、家探しから作品資材の調達、そして映像の中で使うための、市民会館ゆかりの芸能人の顔イラストを地元の高校生と交流しながら描くなど、わずか1カ月の間に様々な交流が展開されたようだ。しかし残念ながら、この過程は作品中から読み取ることはできず、本展企画者である学芸員の原田正俊さんから伺った。滞在制作はいつもそうだが、その過程にこそ本質があり、そして興味深い。高嶺は、本展作家の中で、最も地域の文脈を尊重し、本展趣旨にふさわしい活動を行なったが、ライブ感覚を身上のひとつとする彼の活動は、なかなか展覧会という形式に馴染まないように改めて感じた。じっくりと時間をかけた交流と制作が、高嶺の本質を引き出すような気がした。
 しかし、展覧会の枠内でレジデンスを行ない、多数のワークショップや講演会の機会を設け、美術家自身と観客が相互にふれあえるようにした点において、企画者の、地域文脈を考慮したあたたかい配慮がにじみ出ている。またその一方、「南九州」というくくりを「ローカル」という呪縛ととらず、むしろ多様な美術家たちの「共通項」程度に相対化したことも、本展を面白くした要因であったろう。あなどれない展覧会であった

会期と内容
●メッセージ2007 南九州の現代作家たち
会期:2007年1月19日(金)〜3月11日(日)
会場:都城市立美術館
宮崎県都城市姫城町7-18 Tel. 0986-25-1447

学芸員レポート
風景模型
建築ツアー
上:大竹伸朗《船底と穴》
下:同《日本型――メタアルビノ》
 福岡市美術館では、今夏7月14日〜8月26日の日程で「大竹伸朗展」を開催予定。これは昨年話題となった「全景」とは別の企画で、実をいうと「全景」とほぼ時を同じくして準備が進行していた。さすがに2000点もの作品は、福岡市美術館には入りきらないため、出品点数は絞り込まなくてはならない。それでもアトリエにまだ残る、展覧会未発表作品、「全景」未発表作を多く出品リストに加える予定。だから、「全景」とはかなり空気の異なる展覧会になるはず。驚異の5段がけも今回はなし。だから「日本景」も「倫敦/香港」も目線で鑑賞できることだろう。東京での展覧会がホームなら、福岡での展覧会は「アウェイ」というところか? 
 この福岡での大竹伸朗展に先立ち、実はもう作品展示をしてしまっている。あの「宇和島駅」ネオンサイン、シップヤードワークスと称される一連の漁船の作品、そして「日本ゼロ年展」(水戸芸術館)に初出品され、「全景」でもエントランスで観客を迎えた「零景」と「日本型ーメタアルビノ」(白いワニ)が、福岡市美術館のロビーにて先行展示中。「零景」は残念ながらハワイアンもエレキも鳴っていませんが、これは7月のお楽しみということで(場所も変わるかも)。
 「宇和島駅」は屋根ではなく、なんと2階のバルコニーに展示しているので、硝子越しに間近に見ることが可能。これは新津でも水戸でも東京でも実現できなかったこと。7月になったらやっぱり(お約束?)屋根に上げるつもりなので、福岡近郊の方で大竹伸朗に興味がおありの方、ぜひ会期前に一度いらしてください。なお、この大竹伸朗展は9月には広島市現代美術館に巡回予定です。

●大竹伸朗展先行展示
会期:2007年1月30日(火)〜7月上旬
●大竹伸朗展
会期:2007年7月14日(土)〜8月26日(日)
会場:福岡市美術館
福岡市中央区大濠公園1-6
Tel 092-714-60511

[やまぐち ようぞう]
札幌/鎌田享東京/住友文彦|福岡/山口洋三
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