批評家ロザリンド・クラウスの1985年の著書(94年邦訳)。77年から84年にかけて自ら編集に関わっていた批評理論雑誌『オクトーバー』に発表した評論が中心。彼女自身はクレメント・グリーンバーグ、マイケル・フリードというフォーマリズムの論客ともゆかりが深い。しかし、ミニマル・アートなどを経験したうえで、ベンヤミンやフランス現代思想をふんだんに取り入れて、狭義のモダニズムを批判し、広義のモダニズムの理論構築に尽力している。ここでは、実証主義の方法論や、協議のモダニズムの諸中心概念の検討、批判に至る。
なかでも、「アヴァンギャルドのオリジナリティ」で繰り広げられる主張は重要である。モダニズムの中心概念であるアヴァンギャルドとは、絶対的な新しさ、無からの創造を希求する一方で、例えばグリッドという「オリジナルなき複製体系」で、反復するしかない体系を呼び込むのだ。それまで、モダニズムにおいてオリジナリティは反復、コピー、複製とは無縁の絶対的な価値であったが、クラウスはその間のどちら側に価値があるわけでもなく、相互に関係していることを指摘する。
この主張はこの著書を通底するものである。彼女はさらに、写真というモダニズム理論では解き明かされない対象に迫りつつ、とりわけ60年代以降の芸術に、理論的な枠組みを与えている。
(三上真理子)
●R・クラウス『オリジナリティと反復』(小西信之訳、リブロポート、1994)
|