2019年10月15日号
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《夜の旅》マーサ・グレアム

Night Journey, Martha Graham

モダン・ダンスの代表的な振付家・ダンサーであるマーサ・グレアムが1947年に初演した作品。音楽はウィリアム・シューマン、舞台美術はイサム・ノグチが担当。ソフォクレスの《オイディプス王》をもとに、母と子であり、また妻と夫の関係でもあるヨカスタとオイディプスの悲劇を、原作とは異なり、ヨカスタを中心に描いた。ゆえに本作は、フロイトが説いたエディプス・コンプレックスをめぐる無意識への問いをフロイトが見過ごした女性の視点から再構成していると多くの批評家・研究家は考えている。冒頭で臍の緒を暗示した長い紐を手にヨカスタが現われ、首をくくる身振りをすると、場面が過去へとフラッシュバックする。「夜の旅」とは、息子/夫(オイディプス)とともに過ごしたヨカスタの罪深い過去をめぐる旅である。コロス(合唱隊)となる六人の女性ダンサーたちは「夜の娘」であり、無意識の闇のなかに棲んでいるという設定である。グレアムによれば、彼女たちは人間みなが持っている記憶に対する恐怖心を表わしている。真理を告げる盲目のテイレシアスが現われる場面では、原作とは異なりオイディプスではなくヨカスタが対話をする。その後、ヨカスタはオイディプスと踊る。踊りは二人のエロティックな関係を示唆する。しばしばコントラクションが踊りに用いられるが、グレアムはそうした身体の収縮する状態を「ヴァギナの叫び」と呼んでいる。紐に絡まった二人の前にテイレシアスが再度現われ、真実を告げる。オイディプスが去るとヨカスタは紐を首に絡ませ倒れる。本作品は、心理学への興味を背景に、古代ギリシャの悲劇や神話に傾倒したグレアムの代表的作品のひとつである。

著者: 木村覚

参考文献

  • 『血の記憶 マーサ・グレアム自伝』, マーサ・グレアム(筒井宏一訳), 新書館, 1992(原著1991)
  • Deep Song: The Dance Story of Martha Graham, Ernestine Stodelle, Schirmer Books, 1984
  • Dancing Woman: Female Bodies on Stage, Sally Banes, Routledge, 1998

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