2019年06月15日号
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「複製技術時代の芸術作品」ヴァルター・ベンヤミン

“Das Kunstwerk im Zeitalter seiner technischen Reproduzierbarkeit”(独), Walter Benjamin

ドイツの思想家であるヴァルター・ベンヤミンが1936年に発表した論考。写真や映画などの複製技術が、伝統的な芸術作品から「アウラ」をはぎとる過程を考察し、芸術と人間の関係がどのように変化したのかを論じた。芸術の発展傾向から工業化社会における政治や知覚の在り方を読み解く手法は、後のメディア論、文化産業論、カルチュラル・スタディーズといった学問領域に影響を与えている。写真や映画による機械的複製は、芸術作品の精巧かつ均質なコピーの大量生産を可能にした。かつて作品のオリジナルは「いま」「ここ」にしか存在しえないという一回性によって権威を保っていたが、あらゆる状況に存在しうるコピーはオリジナルを本来置かれていた文脈から時間的および空間的に切り離してしまう。ベンヤミンは、この際に芸術作品から失われる性質のことを「アウラ」と呼び、複製を前提として作られる映画やダダイズム絵画などの非アウラ的芸術を積極的に評価する。旧来の絵画、彫刻、演劇といったアウラ的芸術は、礼拝の対象として少数の受け手による集中的な鑑賞を許すのみであった。しかし、ルネサンス以降はタブローや胸像といった展示可能性の高い方式が一般化。より多くの鑑賞者による非宗教的な場での芸術の受容が可能になり、礼拝的価値から展示的価値へのシフトが起こる。その後に登場した機械的複製は、芸術作品の展示可能性を飛躍的に増大させ、大衆が参加しうる芸術への道を開いた。一方で、この変化は礼拝的価値の基盤を失った芸術が「芸術であること」そのものに根拠を求めて宗教から政治に軸を移していく事態も引き起こす。その結果、映画を用いて「芸術のための芸術」への礼拝的価値を作り、政治の芸術化によって人々を戦争へと導くファシズムが生まれるのであった。ベンヤミンはファシズムによるアウラの捏造を批判し、コミュニズムに立脚した芸術の政治化を提唱して本書を締めくくっている。

著者: 高橋聡太

参考文献

  • 『複製技術時代の芸術』, , ヴァルター・ベンヤミン(佐々木基一ほか訳), 晶文社, 1997
  • 『ベンヤミン・コレクション〈1〉近代の意味』, , ヴァルター・ベンヤミン(浅井健二郎、久保哲司ほか訳), ちくま学芸文庫, 1995
  • 『ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読』, , 多木浩二, 岩波現代文庫, 2000
  • 『啓蒙の弁証法 哲学的断想』, , マックス・ホルクハイマー、テオドール・アドルノ(徳永恂訳), 岩波書店, 2007
  • 『ベンヤミン/アドルノ往復書簡 1928-1940』, , ヴァルター・ベンヤミン、テーオドーア・W・アドルノ、ヘンリー・ローニツ編(野村修訳), 晶文社, 1996

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