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『なぜ、植物図鑑か 中平卓馬映像論集』中平卓馬
Why an Illustrated Botanical Dictionary?, Takuma Nakahira
1960年代末から70年代にかけて先鋭的な写真論を展開した中平卓馬が、73年に出版した映像評論集。写真だけでなく、映画やTV、美術など同時代の芸術表現を根底から問い直すような挑発的な言葉が綴られている。巻頭に収録された「なぜ、植物図鑑か」というタイトルの文章では、それまでの中平の写真を特徴づけていたポエジーやイメージの世界が自己否定され、「事物が事物であることを明確化する事だけで成立する」ような「植物図鑑」としての写真が宣言される。中平は世界を自らの主観的なイメージで染め上げるのではなく、カラー写真によるカタログの写真のような羅列こそが「あるがままの世界」を顕現させうる来たるべき写真であるという。しかし、そうした彼岸なるものへの欲望と「植物図鑑」という方法論に呪縛された中平は、70年代の半ば頃から写真を撮ることよりも文章を書くことが多くなり、写真家としてはスランプに陥る。77年には急性アルコール中毒によって病に倒れ、「植物図鑑」への歩みも中断される。
著者: 小原真史
参考文献
- 『見続ける涯に火が… 批評集成1965-1977』, 中平卓馬, オシリス, 2007
- 『出会いを求めて』, 李禹煥, 田畑書店, 1971
- 『写真よさようなら』, 森山大道, 写真評論社, 1972
- 『なぜ、植物図鑑か―中平卓馬映像論集』, 中平卓馬, (ちくま学芸文庫), 2007