2019年12月01日号
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『トポフィリア』イーフー・トゥアン

Topophilia: A Study of Environmental Perception, Attitudes, and Values, Yi-Fu Tuan

1974年、地理学者であるイーフー・トゥアンによる著作。トポフィリアとは、「topos(場所)」+「philia(愛)」による造語である。ガストン・バシュラールは著書『空間の詩学』(1969)において「トポフィリ(場所への愛)」という概念を提示した。トゥアンはそこに人々と環境との間の情緒的な結びつき、すなわち愛着という意味合いを付加し、概念的な思考ではなく主体の認識に重きを置く現象学的なアプローチによって環境を論じた。本書では、愛着という主観的・抽象的な価値観を議論可能とするための枠組みを提示している。外的な刺激への反応である「知覚」と、概念化された経験である「世界観」、それによって人が世界に対してとる「態度」をキーワードとしてトポフィリアの分析を展開し、民族間での世界の理解の違いや生活様式の空間的パターン分析などの例証を通して、情緒と場所とを結びつける。かくしてトゥアンは、人種や集団や個人といったさまざまなレヴェルでの環境に対する知覚と価値づけの調査によって、文化と環境の関係のなかで、トポフィリアが価値の形成においてどのように働いているのかを把握することを試みた。こうした思考がもたらされた背景には、当時の定量化された事実を重んじる地理学と人間の実生活との乖離を乗り超えようとした意図を指摘できる。トゥアンは個人や集団という小規模なスケールに生じる主観的価値観の言語化を通して、地理学に新しい視点を与えた。出版当時は環境保護運動への意識が広く世間に芽生え始めた時代でもある。環境保護を訴える過激な情熱は、安易に人類の進歩を否定しがちだ。トゥアンはそのような環境偏重主義に対し、高度に人の手が加わった世界にも、独自の生態学的な豊かさと美しさを認めるべきだと主張する。こうしたまなざしは現代においても多分に示唆的であると言えるだろう。

著者: 江川拓未

参考文献

  • 『空間の詩学』, ガストン・バシュラール(岩村行雄訳), ちくま学芸文庫, 2002
  • 『トポフィリア 人間と環境』, イーフー・トゥアン(小野有五、阿部一訳), ちくま学芸文庫, 2008
  • 『空間の経験 身体から都市へ』, イーフー・トゥアン(山本浩訳), ちくま学芸文庫, 1993

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