2019年06月01日号
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『奇想の系譜』辻惟雄

Kisou no Keifu, Nobuo Tsuji

1970年に出版された日本美術史論の著作。著者は日本美術史研究者の辻惟雄。江戸時代の画家、岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳の作品と伝記を、「奇想」のキーワードを通して論じたもの。68年に『美術手帖』誌上で行なわれた全6回の連載「奇想の系譜・江戸のアヴァンギャルド」を増訂し、70年に美術出版社から書籍として刊行された。88年にはぺりかん社、2004年にはちくま学芸文庫から新版が出版されている。「奇想」は「因襲の殻を打ち破る、自由で斬新な発想」を意味するとされ、取り上げられた画家たちは表現主義的な傾向をもち、作品はエキセントリック、幻想的、グロテスクなどと形容されるものが多い。それまでの近世絵画史研究では、その歴史的展開が、流派やジャンル(狩野派、円山四条派、文人画など)を中心に認識されて語られていた。これに対して本書は、流派別史観では傍流扱いされていた画家たちに焦点を当て、流派の枠を超えた「奇想」という概念のもと、彼らを江戸時代絵画史の重要なひとつの系譜として位置づけることで美術史研究に新しい視点をもたらした。また、当時の美術史研究では知られていなかった彼らの新たな作品を、写真図版とともに多く紹介した点も同書の特色といえる。89年には姉妹版として『奇想の図譜』(平凡社)が刊行された。「奇想」の画家たちとその作品は、特に2000年代以降、伊藤若冲などの大規模展覧会が多数の観客を集めるようになり、研究者だけではなく一般にも認知が浸透した。また辻自身が、江戸時代の「奇想」作品と現代の視覚表現との造形上の符合を指摘する一方、現代美術作家にも『奇想の系譜』の影響を公言する人々がおり、美術史研究と現代美術との関係性を取り持つ著作ともなっている。

著者: 太田智己

参考文献

  • 『奇想の系譜』, 辻惟雄, ちくま学芸文庫, 2004
  • 『ギョッとする江戸の絵画』, 辻惟雄, 羽鳥書店, 2010
  • 『美術手帖』2001年11月号, 対談=『奇想の系譜』を汲む者たち, 辻惟雄、村上隆, 美術出版社
  • 『奇想の図譜』, 辻惟雄, ちくま学芸文庫, 2005

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