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『関係性の美学』N・ブリオー
L’esthétique relationnelle, Nicolas Bourriaud
フランス出身の理論家・キュレーターであるニコラ・ブリオー(1965-)が1998年に刊行した著作。2002年には英訳も刊行され、その後のブリオーのキュレーターとしての世界的な活躍を標しづける一冊となった。同書はブリオー自身がボルドー現代美術館やパレ・ド・トーキョーの企画展において評価した同時代の作家/作品を、「関係(relation)」の創出という観点から論じたものである。上記のような作品は「リレーショナル・アート」と呼ばれ、リクリット・ティラヴァーニャ、リアム・ギリック、フィリップ・パレーノ、ヴァネッサ・ビークロフトなどがその代表的な作家として挙げられる。『関係性の美学』という著作そのものは、ブリオーが編集に携わった90年代半ばの雑誌『芸術についての記録』における連載をまとめたものであり、必ずしも「関係性の美学」という主題に関する体系的な議論が構築されているわけではない。加えて、その後に刊行された『ポストプロダクション』(2001)や『ラディカント』(2009)といった著作に目を向けてみても、そこで『関係性の美学』に続く一貫した理論が提示されているとも言いがたい。しかし、同書に端を発する「リレーショナル・アート」や「関係性の美学」という基本コンセプトは、90年代から00年代にかけて急増したインスタレーションをはじめとする新たなタイプの作品、ひいては地域振興を旨とするコミュニティ・アートなどの理論的な後ろ盾としてしばしば援用されることになった。そのような意味において、同書は2000年代以降の美術の新たなパラダイムを切り拓いた著作であり、現在邦訳が最も待たれている一冊である。
著者: 星野太
参考文献
- L’esthétique relationnelle, Nicolas Bourriaud, Presses du réel, 1998
- Relational Aesthetics, Nicolas Bourriaud, Presses du réel, 2002
- 『表象05』, 「敵対と関係性の美学」, クレア・ビショップ(星野太訳), 2011