2023年06月01日号
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サイバースペース

Cyberspace

小説家のウィリアム・ギブスンがSF作品『ニューロマンサー』(1984)のなかで用いた言葉。「サイバネティックス(cybernetics)」と「スペース(space)」の合成語であり、ギブスンの主要著作の訳者である黒丸尚によって「電脳空間」という訳語が与えられた。通信工学と制御工学、あるいは生理学と機械工学を総合的に扱うことを目指す「サイバネティックス」(N・ウィーナー)から、ギブスンは脳と機械が統合された電子的ネットワークとしての「サイバースペース」を着想した。このギブスンの世界観が後世に与えた影響は甚大であり、SFジャンルとしての「サイバーパンク」から、D・ハラウェイの「サイボーグ宣言」に始まるサイボーグ・フェミニズム、さらにはそれに影響された大量のサブカルチャー作品(『AKIRA』や『マトリックス』など)をのちに世界中に生むことになる。ギブスン自身もテクストを寄稿した記念碑的な論文集『サイバースペース』(1991)を通覧すれば一目瞭然だが、理論ないし理念としてのサイバースペースが論じられる分野は哲学、社会学、メディア論、精神分析学、カルチュラル・スタディーズなど極めて幅広い。インターネット環境の遍在化に伴い、かつての「サイバースペース」という空間の比喩を用いた名称は近年あまり用いられなくなっているが、現在でもその痕跡はインターネット上の犯罪行為を「サイバー犯罪(cybercrime)」と呼ぶ慣習などに残っている。

著者: 星野太

参考文献

  • 『ニューロマンサー』, ウィリアム・ギブスン(黒丸尚訳), ハヤカワ文庫, 1986
  • 『サイバースペース』, マイケル・ベネディクト編(NTTヒューマンインタフェース研究所、鈴木圭介、山田和子訳), NTT出版, 1994
  • 『サイバースペースはなぜそう呼ばれるか+』, 東浩紀, 河出文庫, 2011

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