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セリー音楽
Musique sérielle(仏), Serial Music(英), Serielle Musik(独)
1オクターヴの12の半音すべてを含む音列の操作を12音技法というが、この音列操作を持続、強度、音色といった音響事象のすべてに適用したのがトータル・セリエリズムである。総音列主義とも呼ばれる。O・メシアンが《音価と強度のモード》(1949)で始めたトータル・セリエリズムは、50年代初めにダルムシュタット夏期現代音楽講習会に登場したL・ノーノ、P・ブーレーズ、K・シュトックハウゼン、B・マデルナらによって前衛音楽界に浸透した。アメリカではM・バビット、E・カーターらがヨーロッパの伝統の延長線上で12音技法やトータル・セリエリズムを受容し、実験音楽とは異なるアカデミックなアメリカ現代音楽シーンを築いた。こうしたある種のオートマティスムによる作曲技法が興った背景には、あらゆる芸術はそれ自体の内的な法則に従って進むというモダニズムの芸術観が反映されている。一方、音高以外のパラメータにセリーが適用された場合の可聴性に疑問を呈し、トータル・セリエリズムを批判する声もあった。無調と12音技法を音楽史の進歩主義的な発展の行く末ととらえるならば、トータル・セリエリズムはその発展の極致でもあり、また袋小路でもあった。70年代にはポスト・セリエリズムの作曲家としてB・ファーニホウらがセリーを踏襲した複雑なテクスチュアの曲を書き、トータル・セリエリズム以降の作曲技法を打ち出した。後にトータル・セリエリズムの考え方はアルゴリズム作曲法に応用されることになる。
著者: 高橋智子
参考文献
- 『現代音楽を考える』, ピエール・ブーレーズ(笠羽映子訳), 青土社, 1996
- 『現代音楽 1945年以後の前衛』, ポール・グリフィス(石田一志、佐藤みどり訳), 音楽之友社, 1987
- Music in the Late Twentieth Century, Richard Taruskin, Oxford University Press, 2009
- Twelve-Tone Music in America, Joseph N. Straus, Cambridge University Press, 2009
- Visible Deeds of Music: Art and Music from Wagner to Cage, Simon Shaw-Miller, Yale University Press, 2002