2019年06月01日号
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ヘゲモニー

Hegemony

覇権。一般的にはイタリアの政治学者アントニオ・グラムシの概念として知られる。グラムシによれば、「ヘゲモニー(egemonia)」とは支配集団による知的、道徳的、政治的な指導権を意味する。グラムシの議論の要点は、ここで言う「指導権」が暴力的な強制からのみ生じるのではなく、従属集団の合意を巧みにとりつけることを通じて生じるという点である。ムッソリーニ政権下の獄中で執筆されたグラムシのヘゲモニー論は後に『獄中ノート』として出版され、1970年代以降のマルクス主義やカルチュラル・スタディーズの理論へと接続されていくことになる。その代表例が、エルネスト・ラクラウとシャンタル・ムフが85年に刊行した『ヘゲモニーと社会主義の戦略』(邦題=『ポスト・マルクス主義と政治』)である。同書の中でラクラウとムフは、グラムシの「ヘゲモニー」を「根源的民主主義(ラディカル・デモクラシー)」のための主要概念として位置づける。ラクラウとムフによれば、ある面では本質的かつ普遍的に見える既存の政治システムは、過去のヘゲモニー闘争の結果として構築されたものにすぎない。これは裏返して言えば、私たちはヘゲモニー闘争を通じて、普遍的であるかに見える既存の政治システムをたえず修正していくことができるということである。このように、普遍性やアイデンティティの構築という問題にまで射程を広げるラクラウとムフのヘゲモニー論は、精神分析(スラヴォイ・ジジェク)やアイデンティティ・ポリティクス(ジュディス・バトラー)と関わり合いながら、今日の主体や文化をめぐる問題の中で重要な位置を獲得している。

著者: 星野太

参考文献

  • 『グラムシ選集(全6巻)』, アントニオ・グラムシ(山崎功監修), 合同出版社, 1960-1964
  • 『グラムシ問題別選集(全4巻)』, アントニオ・グラムシ(石堂清倫編), 現代の理論社, 1971-1972
  • 『ポスト・マルクス主義と政治 根源的民主主義のために』, エルネスト・ラクラウ、シャンタル・ムフ(山崎カヲル、石澤武訳), 大村書店, 1992
  • 『偶発性・ヘゲモニー・普遍性 新しい対抗政治への対話』, ジュディス・バトラー、エルネスト・ラクラウ、スラヴォイ・ジジェク(竹村和子、村山敏勝訳), 青土社 , 2002
  • 『グラムシ「獄中ノート」の学的構造』, 鈴木富久, 御茶の水書房, 2009

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