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マニエリスム
Manierismo(伊), Maniérisme(仏), Mannerism(英)
マニエリスムとは、16世紀中頃から末にかけて見られる後期イタリア・ルネサンスの美術様式を指す。この名称は、イタリア語の「マニエラ(maniera)」に由来し、「手法」や「様式」を意味する。ミケランジェロやラファエロの「手法」を評価するにあたり、ヴァザーリはこの「マニエラ」に「自然をも凌駕する高度な芸術的手法」という意味を付加した。しかし17世紀、バロックの時代に入ると、盛期イタリア・ルネサンスの終盤から16世紀末までの芸術家への評価が、ルネサンス絶頂期の画家たち、特にミケランジェロの手法を繰り返すだけの模倣者とみなされるようになってしまった。そのため、マニエリスムという名は「創造性を失った芸術」という否定的な呼称として使用されるようになったのである。このような過小評価から脱し、マニエリスムが再評価されるのは20世紀に入ってからのことで、盛期イタリア・ルネサンス以降の芸術動向を表わす様式名として定着していった。 マニエリスムには、ミケランジェロの後期作品が含まれる場合があるが、基本的には、宗教改革やスペインのカルロス5世の傭兵隊によるローマ略奪など、当時の不安定な時代背景を反映した不安感や盛期ルネサンスの古典的調和の意図的破壊が表われているポントルモ、ロッソ・フィオレンティーノ、ベッカフーミなど、また芸術的洗練や奇想が特徴的なパルミジァニーノ、ブロンジィーノ、彫刻家のチェッリーニ、ジォヴァンニ・ダ・ボローニャ(ジャンボローニャ)などの作品が挙げられる。特に後者のタイプは、公の場に晒されるものではなく、宮廷や知的階層の社会で享受され、楽しまれるものであった。様式的特徴は非現実的な人体比例、誇張された遠近法と短縮法、不自然な空間表現、反自然主義的な色調などである。マニエリスム解釈はいまだ決定的ではないが、その形式については盛期イタリア・ルネサンスの調和を本質から否定・破壊するものではなく、自然的調和を崩して、芸術的洗練や技巧、主観性などを追求、強調したものと言ってよいだろう。なお、盛期イタリア・ルネサンス時代が他の地域よりも長く続いたとされるヴェネツィア派の画家たちにも、マニエリスムの影響は見られ、またフランスがフィオレンティーノやチェッリーニらを招聘したことから、フォンテーヌブロー派にもその影響が窺える。
著者: 小野寛子
参考文献
- 『マニエリスム ルネサンスの危機と近代芸術の始源』(全3巻), アーノルド・ハウザー(若桑みどり訳), 岩崎美術社, 1970-86
- 『美術・建築・デザインの研究1 マニエリスムとバロック』, ニコラウス・ペヴスナー(鈴木博之、鈴木杜幾子訳), 鹿島出版会, 1980
関連ワード
関連人物
アーニョロ・ブロンズィーノ(Agnolo Bronzino)
ジャンボローニャ(Giambologna)
ジョルジョ・ヴァザーリ(Giorgio Vasari)
ドメニコ・ベッカフーミ(Domenico di Pace Beccafumi)
パルミジャニーノ (Parmigianino)
ベンヴェヌート・チェッリーニ(Benvenuto Cellini)
ミケランジェロ・ブオナローティ(Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni)
ヤコポ・ダ・ポントルモ(Jacopo da Pontormo)
ラファエロ・サンティ(Raffaello Santi)
ロッソ・フィオレンティーノ(Rosso Fiorentino)