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モレッリ法
Il Metodo Morelliano(伊)
19世紀のイタリアの美術史家ジョヴァンニ・モレッリが芸術作品のアトリビューション(帰属)を突きとめるために編み出した鑑定方法。モレッリは人があまり気を留めないような意味を欠いた細部にこそ描き手の無意識の癖が露呈すると考え、画中の人物の副次的形態、例えば手足の指、爪、耳の形などに注目し、それらの体系化と比較対照が、署名のない作品の作者を割り当てたり、真作/偽作を判断するのに有効であると主張した。この鑑定方法の集大成である『イタリア絵画の芸術批判的研究』(1890-93)では、ローマやミュンヘンの美術館が所蔵する古典絵画を大々的に再検証し、ドレスデン美術館所蔵のジョルジョーネ作《眠れるヴィーナス》のアトリビューションを確定するなど、歴史的発見にも貢献した。こうした視覚的データに基づく厳密な形態研究は、いわゆる「コネッスール(目利き)」の仕事に位置づけられ、芸術家の列伝史から作品自体の分析へと移行する近代美術史学の成立期において重要な役割を果たし、B・ベレンソン、R・ロンギ、M・フリートレンダーといった後続の美術史家たちに批判を交えつつ継承された。モレッリ法は痕跡から犯人を追跡する探偵や指紋鑑定による身元確定になぞらえられる一方、無意識に現われる兆候に個人の隠れた本質を読みとる点から、精神分析を発見する以前のフロイトにも影響を与えた。
著者: 中島水緒
参考文献
- 『西洋美術史ハンドブック』, , 高階秀爾、三浦篤編, 新書館, 1997
- 『美術史学の歴史』, , ウード・クルターマン(勝國興、高阪一治訳), 中央公論美術出版, 1996
- 『芸術と狂気』, , エドガー・ウィント(高階秀爾訳), 岩波書店, 1965
- 『神話・寓意・徴候』, , カルロ・ギンズブルグ(竹山博英訳), せりか書房, 1988
- Italian Painters: The Borghese and Doria-Pamfili Galleries in Rome, , Giovanni Morelli, Nabu Press, 2010