2019年12月01日号
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井上有一展示問題

The Issue of Exhibition of the Works by Yuichi Inoue

展覧会に対して遺族が物故作家の意図に反するとして作品の撤去を求め、美術館がそれに応じ和解した事件。1999年、長野県信濃美術館で「比田井天来と日本近代書道の歩み」展が開催された。第三部「天来の系譜」において、書家の井上有一の作品《噫横川国民学校》(1978、群馬県立近代美術館蔵)と《骨》(1959、東京国立近代美術館蔵)の二点が展示されたが、これに対し、作品は展覧会のコンセプトにそぐわず、展示は井上の人格権の侵害にあたるとして遺族が撤去を求め、承認された。この事件には二つの問題が含まれている。ひとつは《噫横川国民学校》の主題は東京大空襲であり、「戦争画」の要素が内在化されていることである。この作品は95年、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で展示された。同時期にワシントンD.C.のスミソニアン博物館で「エノラ・ゲイと原爆の状況」という展覧会の計画があったが、被害の状況を伝える展示が日本側の視点に立ちすぎているという声がアメリカ各地で上がり、館長が辞任に追い込まれるという事件も起きた。終戦から50年が経っても、日米ともに戦争は終っていないのだ。それはもうひとつの問題、作品の意図と美術館のキュレーションとの関係にも関わっている。美術館・キュレーターは作品・作家の意図を十全にくみ取る必要があるが、この事件はその困難さを浮き彫りにしているといえよう。

著者: 宮田徹也

参考文献

  • 「比田井天来と日本近代書道の歩み」展カタログ, 長野県信濃美術館, 1999

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