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北海道開拓写真
Hokkaido Kaitaku Shashin
1869年(明治2年)の北海道開拓使の設置にともない、国家プロジェクトとして撮影された北海道開拓の記録写真。開拓使は北海道における開拓の進捗状況を中央へと報告するために、アメリカによる西部開拓の写真記録をモデルとして写真師たちを招聘した。71年、開拓使は函館の写真師田本研造らに札幌における開拓事業の写真記録を依頼し、これが北海道開拓写真の始まりとなった。「北海道写真の父」と呼ばれた田本を筆頭とする御用写真師たちはクライアントである開拓使や中央政府から高額の報酬を得ながら開拓の最前線における撮影に従事し、そのプロセスを詳細に記録した。73年のウィーン万博には開拓写真が開拓使から出品されたが、それは国内外に向けて新生日本の国土の範囲とその国力を可視化するための役割を仮託されてのことであった。これらは1968年に開催された「写真100年 日本人による写真表現の歴史」展(日本写真家協会主催)の調査の過程で再発見され、芸術と記録という二項対立的な図式のなかで高く評価され経緯があるが、そこでは開拓の記録であると同時に侵略の記録でもあるという二重性が看過されてもいた。現在これらの写真は北海道大学付属図書館北方資料室や函館市立中央図書館に保存されている。
著者: 小原真史
参考文献
- 『日本写真史 1840-1945』, 日本写真家協会編, 平凡社, 1971
- 『北海道開拓写真史 記録の原点』(ニコンサロンブックス), ニッコールクラブ編, ニッコールクラブ, 1980