2019年08月01日号
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戦後社会派リアリズム

Postwar Social Realism

広義には、20世紀の二つの大戦後のそれぞれ一定の時期に具象的方法を用いて深刻な社会状況を表現した芸術動向。日本においては、第二次世界大戦終結後から1950年代頃までの芸術全般に著しく認められた同リアリズムの傾向を指す。土門拳の写真(『ヒロシマ』[1958]や『筑豊のこどもたち』[1960]など)、あるいは今井正の映画(『どっこい生きてる』[1951]や『米』[1957]など)がしばしば代表的なものとして挙げられるが、それらは原爆被災、貧困、労働問題など敗戦後の社会現象に取材し再現を試みたものであった。美術においては、終戦から50年代半ばまでに描かれた具象絵画のうち、社会との関連性を抽出しうるものに対して主に用いられている。土門や今井の作品と直接響き合うものとしては、米軍基地拡張反対運動をめぐって起きた砂川事件に題材を得た中村宏の《砂川五番》(1955)がある。また、それとは異なる方向性を持つ鶴岡政男の《重い手》(1949)や河原温の《浴室》シリーズ(1953-54)も並び挙げられる。鶴岡の、うずくまる人間の身体に巨大な手が重くのしかかる描写は、上野駅周辺で路上生活をする人々に触発されたとも伝えられ、閉塞感漂う画面が時代の空気を表現していると見なされた。あるいは、断片化された身体がタイル貼りの空間に配置された《浴室》シリーズを手がけた頃の河原も、「日本人の精神的状況を密室の光景や顔によって捉えようとするリアリスト」(峯村敏明)として戦後社会派リアリズムの重要なひとりに数えられている。その一方で、左翼的社会派リアリズムとも呼びうるひとつの潮流をつくった内田巌らは、「戦後民主主義」信奉の素朴な絵画表現者と見なされて戦後美術史の後ろに退いた。

著者: 長チノリ

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