2019年06月15日号
次回7月1日更新予定

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集中的聴取

Concentrated Listening

19世紀に提唱された「芸術音楽」に対応する音楽の聴き方を指す。楽曲の各部分を互いに関係づけ、全体を作曲家の精神性の表現として理解することを目指し、細部や音の美しさにはこだわらず、全体の把握を妨げるものを極力排除しようとする。現在でもクラシック音楽のコンサートなどにその規範がみとめられる。渡辺裕は『聴衆の誕生』(1989)で、R・M・シェーファーに倣ってこうした聴き方を集中的聴取と呼び、その歴史的経緯や20世紀以降にこの聴き方が解体していく過程を解説した。芸術音楽という概念は19世紀の音楽文化に芸術/娯楽、高級/低俗という区別を持ちこむものだった。高級な音楽の聴き方として上のような規範が推奨され、それを支える施設、マナーがこの時代から整備されていった。アドルノの「構造的聴取」論はその規範の詳細な理論化である。しかし、このような聴き方の推奨は20世紀に至ると、録音テクノロジーの発達や商業主義の台頭のなかで力を失っていく。それどころか、19世紀の音楽文化の実証的研究が進むにつれて、集中的聴取が積極的に提唱された時代ですらこの規範がどれほど遵守されていたのか疑われるようになる。代わりに目立ってきたのは楽曲を作曲家の精神性以外と結びつけ、楽音を断片化し、多様な用途に利用する聴取である。これをアドルノは「教養的」「情緒的」「ルサンチマン型」「娯楽型」「スポーツ的」と分類して批判し、シェーファーは「周辺的聴取」、渡辺は「軽やかな聴取」と中立的に表現した。こうした変化に呼応するかのように、作曲家の精神性の理解とは別の方向を目指す音楽の聴き方を作曲家が提案するようにもなる。ミュジック・コンクレートの創始者P・シェフェールは、楽音を何とも関連づけない聴き方を「現象学的還元」に倣って「還元的聴取」と名づけた。アメリカの音楽家P・オリヴェロスは瞑想やエクササイズを通じて聴覚経験の拡張を図る聴き方を「ディープ・リスニング」と呼んでいる。

著者: 金子智太郎

参考文献

  • 『音楽社会学序説』, Th・W・アドルノ(高辻知義、渡辺健訳), 平凡社ライブラリー, 1999
  • Traité des objets musicaux: Essai interdisciplines, Pierre Schaeffer, Seuil, 1966
  • 『世界の調律 サウンドスケープとはなにか』, R・マリー・シェーファー(鳥越けい子ほか訳), 平凡社ライブラリー, 1986
  • 『聴衆の誕生 ポスト・モダン時代の音楽文化』, 渡辺裕, 春秋社, 1989
  • Deep Listening: A composer's sound practice, Pauline Oliveros, iUniverse, Inc., 2005

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