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音響詩
Sound Poetry(英), Poésie sonore(仏)
最も広義には、他のどの側面よりも音が中心になっている詩。こうした詩は世界中で伝統的につくられていたが、前衛的な試みとして制作されだしたのは20世紀初頭である。さらに「音響詩(sound poetry/poésie sonore)」という用語がジャンルの名称として使われ始めたのは1950年代である。「音声詩」という訳もあり、また「phonetic poetry/poésie phonétique」「text-sound」などの名称も使われる。前衛としての音響詩は概して、言語を意味から解放することを目指した。こうした試みはロシア未来派のV・フレーブニコフやイタリア未来派のF・T・マリネッティによって開始され、ダダイズム、デ・ステイルに受け継がれていく。第二次大戦後のフランスではI・イズーらレトリストが語を形成しない文字の連続による詩作を試み、またA・アルトーの《神の裁きと訣別するため》(1947)が物議を醸した。50年代に至ると、H・ショパン、B・エドシック、F・デュフレーヌらにより音響詩は新たな展開を見せる。前衛としての音響詩が活字を利用したのに対し、彼らはエレクトロニクスによる声の変形に取り組み、また意味の復権を試みた。同時期にB・ガイシン、B・コビングらも現われ、音響詩の国際的ネットワークが形成されていく。なかでもフルクサスのD・ヒギンズは伝統的作品を含む音響詩の分類を試みている。90年代に入ると過去の音源のCD化、および視覚詩・具体詩・音響詩のリポジトリ(データベース)として96年に始まったUbuwebなどにより、以前と比較して格段に過去の作品に接しやすくなった。
著者: 金子智太郎
参考文献
- 『言葉のアヴァンギャルド ダダと未来派の20世紀』, 塚原史, 講談社, 1994
- 『ダダ・シュルレアリスムの時代』, 塚原史, 筑摩書房, 2003
- 『蘇るフレーブニコフ』, 亀山郁夫, 平凡社, 1989
- 『インターメディアの詩学』, ディック・ヒギンズ(岩佐鉄男訳), 国書刊行会, 1988
- 『現代音楽を読み解く88のキーワード 12音技法からミクスト作品まで』, ジャン=イヴ・ボスール(栗原詩子訳), 音楽之友社, 2008
参考資料
- Ubuweb, http://ubu.com/
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関連人物
アントナン・アルトー(Antonin Artaud)
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