美術館が売りに出されるとき

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ここ2週間ほど、マサチューセッツ州ボストン市郊外にあるブランダイス大学の理事会が、付属美術館のローズ美術館を売却する方針を決定したことが、アメリカの美術界で話題となっています。

ローズ美術館は1961年に開館した大学付属美術館で、批評家であり美術史家であった初代館長のサム・ハンターが集めたロバート・ラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズ、アンディ・ウォーホル、ロイ・リキテンスタインなどの重要作品を含む、約6000点のコレクションを所蔵しています。コレクションの評価額は3億5000万ドルと言われています。

美術館は、もはやアドルノが言ったような作品が死蔵される墓所ではなく、作品売却(de-accession)を通してコレクションを絶えず更新する組織となっています。この作品売却は、新たな作品を購入するための資金とする限りにおいて行われるものという共通理解があるため(アメリカ美術館・博物館協会の「美術館・博物館倫理規約」にもそう定められています[第6.13項])、美術館が財政目的で作品を売却することは倫理的に問題だとされています。

今回のケースは、最近の景気後退で寄付金が減少したために、大学が付属美術館の資産そのものを転用することにしたというもので、作品売却の問題とは異なるという意見もあります。いずれにしても、ローズ美術館の経営はうまくいっており、大学は美術館の光熱費しか負担しておらず、職員の給料や展覧会の経費などは、美術館が独自に寄付金を集めることで確保していたそうです。そうした美術館の経営努力を顧みることなく、美術館とその資産の処分を一方的に決めてしまったのは、明らかに問題があります。

この理事会の決定に対する反発はかなり大きく、翌日にはボストン・グローブ紙が記事にして、その翌日にはCAA(アメリカの美術史学会)が会長名で声明を出しました。美術館を支援するウェブサイトが登場し、Facebookにグループができ、ニューヨーク・タイムズ紙の社説にも取り上げられました。2月末にLAで開かれるCAAの大会でも話題になるでしょう。アメリカの美術界は、ビジネス志向の考えに支配されていると思われがちですが、文化芸術を大切に思う信念とそれに基づく行動もまた、同じくらい力強くあります。

日本の場合は、ここまで資産的価値のある大学美術館が少ないので、公立美術館や企業美術館の売却のほうがあり得ますし、実際、長岡現代美術館の閉館時に同様の問題が起こりました。経済不況のなか、美術館が売りに出されるとき、日本でどのような議論や行動が起こるのか、あるいは起こせるのか、考えさせられる出来事でした。

ブロガー

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