東京出張

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今日は、東京のホテルからの投稿です。

主たる用事は、16日の委員会への出席ですが、1日早く山口を出て、神奈川県立歴史博物館で「アジアとヨーロッパの肖像」展を見て、記念講演会も聞いてきました。

前回ご紹介した通り、同展は大阪、福岡を経て神奈川へと巡回してきた展覧会で、大阪と神奈川では博物館と美術館の2会場で開催されています。会場ごとに出品作品に独自性を持たせている点が、国内では異例の試みで、同じ内容が巡回している、というものではありません。

それでも、国立国際美術館で「美術館分」を見た私にとって、神奈川県博で開催中の同展へ再び足を運ぶことは、見逃していた「博物館分」を補う意味がありました。図録の最初の見開きページを飾っている、狩野探幽《東照大権現霊夢像》とトーマス・マレー《ウィリアム3世像》を見ることができて、ようやくこの展覧会の内容が自分の中で1つのまとまりを成した気がします。

東照大権現=徳川家康と、イギリス国王ウィリアム3世の肖像画の対比は、東西の権力者像の表現の違いを見比べるというだけでなく、こののち、アジアとヨーロッパの交流が盛んになって、それぞれの伝統様式が変容していく歴史をたどる基点ともなっています。国立国際では、作者不詳の《東照宮御影 元日拝礼》とゴドフリー・ネラー郷の《ジェームズ2世》が展示されていました。

会場には、西洋から日本への影響だけでなく、ジャポニスムのような日本から西洋への影響、あるいは、日本以外のアジア諸国で生み出された西洋風の肖像画や、アジアに滞在した西洋人による東洋風の肖像画なども展示され、一口には語れない複雑な「乱流」(同展図録、161頁)が存在したことが示されていました。

企画代表の吉田憲司さんの講演会では、各会場で展示作品が異なることについて、「中心となる1人か数名のキュレーターによるストーリーによってパッケージ化された展覧会が巡回するのでは、共同開催とは言えない。18カ国の共同作業であることから、コンセプトだけを巡回させて、各館のキュレーターが独自に内容を組み換える多声的な展示方式へと至った」という説明がありました。

従来、日本発の国際巡回展に対し、アジア諸国から文化帝国主義的であるとの批判がありましたし、また、逆に日本では、欧米のキュレーターが監修した展覧会が国内を巡回することが、現在でも少なくありません。巡回館の各学芸員が主体性を発揮する同展の方式を、県博の嶋村元宏さんは「競催」という言葉で表現されていました。

また、「移動する都市」展を参考にされたのか質問してみたところ、独自に到達した、ということがわかりました。

この展覧会には、以前話題にした「2人の肖像画」も数点見られます。
日本の《本木良永夫妻像》や、韓国の《文官夫妻の肖像》など一幅の掛け軸に描かれた夫妻像は、それ自体、珍しい作例だと思います(3/1までの展示)。
また、《五州大薬房ポスター》や《ローラースケートをする二人の女性》など、20世紀初頭の中国で制作された商業ポスターは、「双美人図」と言うべき興味深い作例です。

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神奈川県立博物館での展示風景 2009年2月15日13時22分(外は曇り)

ブロガー

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