国際美術展・回想(3)

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1995年のヴェネツィア・ビエンナーレでフィルムを51本使った話の続きです。

合計1,757枚という数は、当時1本のフィルムで36枚から38枚撮影できたことを考えれば、200枚近く少ない計算になります。ヴェネツィアの風景など展覧会と直接関係のない写真や撮り損じを除いた数、という意味でもあるのですが、より具体的には、100枚ずつPhoto-CD化したものが17枚、そして18枚目のCDに57枚の画像が記録されていた、ということから導き出した数字です。

当時、ネガやポジから画像データに変換して、CD-Rに焼きつけてくれるサーヴィスがありました。93年にもこのサーヴィスを利用して3枚のPhoto-CDを作成しています。

今回、このブログの記事を書くにあたり、先ずそれらのPhoto-CDから画像を取り出してみましたが、768×512ピクセルというサイズは、すでに実用的な水準からこぼれ落ちてしまった感じを受けました。そこで、他の記事で表示している写真と合わせる意味でも、あらためてフィルムからスキャナで取り直してみたところ、サイズだけでなく、色調やコントラストもより好状態の画像が得られました。この分野での技術が日進月歩で向上してきたことを実感します。
 

1997年は、ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展とドクメンタX、ミュンスター彫刻プロイエクテの3つの大型展が重なった最初の年です。ドクメンタは1972年の第5回展以降、5年ごとの開催に安定し、ミュンスターは1977年の第1回展以来決まって10年ごとに開催されたので、2つの大型展はずっと重なっていたのですが、1990年代に入って、ヴェネツィア・ビエンナーレが95年に100周年を迎える関係から、93年に、それまでの偶数年の開催から奇数年の開催へと変更したため、3つの大型国際美術展が連続して開幕する「惑星直列」のような周期性が生まれたのでした。今後もいずれかの国際美術展に開催周期のずれが生じない限り、10年ごとに3つの大型展が重なるヨーロッパ現代美術の一大イベントが続くことになります。2007年にはアート・バーゼルも含めた「グランド・ツアー」という協力体制も生まれており、さらなる展開もあり得るでしょう。

私はこれまで1997年、2002年、2007年の3回のドクメンタを訪れましたが、もう少し長く見続ければ、惑星直列の年(97年、07年)とその裏の年(02年)というように、ドクメンタを2つに分けて、対比的に論じることが可能になる、と考えています。
 

ところで、1997年の私は、最初にお話した群馬県立美術館の学芸員になったばかりでした。公務員の1年目で年休は少なかった反面、業務的には先輩方にご協力頂いて秋口に出掛けることができました。夏季休暇や代休も合わせた9月20日から10月4日までの15日間で、パリ、リヨン、ミュンスター、カッセル、ヴェネツィア、ローマを回る計画を立てたのは、限られた日数内にできるだけ多くの展覧会場を訪れたかったからです。

当時私が所持していたデジタルカメラはQV-10Aでした。カシオから96年3月に発売されたヒット商品で、同年4月から水戸芸術館で開催された「水戸アニュアル'96 プライベートルーム」の取材用に購入したので、ほぼ発売直後に入手したことになります。日常的にはかなり活躍しましたが、内蔵メモリに96枚までしか記録できず、長期出張で大量に撮影する予定なら随時パソコンかFDに転送する必要がありました(しかも相当時間がかかりました)。画像のサイズはわずか320×240ピクセル。レンズも固定焦点で、引きのない会場で大きな作品を撮影するのには向いていませんでした。

限られた滞在時間と、撮影のためにノートブックか専用の読み取り装置を携帯しなければならないという煩わしさを考え合わせて、このときの旅行で「見ることに専念する」と決め、撮影そのものを自分に禁じたことは今でも悔やまれます。写真の必要があれば、プロが撮影したものを利用するべきだ、という妙な職業意識を持ってしまっていたとも言えます。この旅行で唯一撮影したのは―つまりそれでもQV-10A本体は携帯していました―リヨン・ビエンナーレの会場で見たクリス・バーデンの《空飛ぶスチーム・ローラー》でした。軍用の巨大なローラー車がメリーゴーランド風に旋回する様子は、写真に撮らなかったとしても今日まで脳裏に焼きついていたかも知れません。そして、むしろ印象の薄かった作品ほど、撮影しておくことの重要性をのちに痛感することになります。

QV-10Aの次に購入したのがビクターのGC-S1でした。しかし、サイズや解像度の点で、現在、使用に耐えられる画像となると2002年9月に入手したニコンのCOOLPIX 3100で撮影したもの以降になってしまいます。

 
20030917blog.jpgヴェネツィア・ビエンナーレ第50回国際美術展の国別参加部門で金獅子賞を受賞したルクセンブルク館のツェ・スー・メイの映像作品 2003年9月17日16時18分(外は晴れ)

※ちょうど今、「ツェ・スー・メイ」展が水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催されています(5月10日まで)。


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