雨、食卓に降り注ごうとも

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昨日は、山口情報芸術センター(YCAM)のダンス公演を見ました。珍しいキノコ舞踊団×plaplaxによる「The Rainy Table」です。

珍しいキノコ舞踊団は、伊藤千枝さんが主宰するダンスカンパニーです。1990年の結成で、すでにかなりの活動実績があります。近年は現代美術の世界でも注目を集めており、2006年には金沢21世紀美術館でオーストラリアの美術家との共同制作を行ったほか、07年にはインドネシアで開催された「KITA!!」展に招待されています。

公演は、女性6人で構成されており、独自の世界観や統一感が感じられました。やわらかさやかわいらしさ、そして激しさや力強さを感じる舞踊でしたが、男性の踊り手が登場しないことによって、男女の対比・対照という観点が舞台からごく自然に除外され、ある種、「非日常的な世界」に没入できる、という仕掛けになっているように思いました。

「ある種」と婉曲的に表現したのは、女性の観客にとっては女子校や、幼稚園・小学校の母親同士のつき合いなど、「女性社会」は、かえって日常的で、現実味のある世界なのかも知れない、という思いがよぎるからです。
美術館や劇場などの文化施設も、女性スタッフの割合が高い職場になって久しいように思いますし、私が所属する人文学部も、女子学生の方が圧倒的に多く、研究室の男子学生は毎年1、2名です。女性ばかりの世界は、男性の私にも案外、「身近な」世界だったように思えてきます。

ポストトークで伊藤さんは、「雨と馬とテーブル」というキーワードから出発した、と話されていました。テーブルは「家族や人が集まる場所」で、これまでにもよく登場した題材だそうです。雨は「自分の意思と関係なく外からやってくるさまざまのもの」の象徴で、今回、「傘を差したりしてよけるのではなく、浴びたらどうだろう」という思いが込められている、と言います。馬は「それでも誰かに導いてもらいたい、という思いがあって」という文脈で登場したようですが、公演が完成してみると「結局、私自身かも知れない、という気がしています」とのお話に、共感できるものがありました。

女性がテーブルにつっぷしている場面が、始めと終わりに繰り返され、最後は大音量の雨音の中、テーブルに積み上げられた食べ物やお酒を、6人が猛烈な勢いで飲み、喰らい、大騒ぎする場面で照明が落とされます。

幕間に、映像として大写しにされた馬の首が、男性の声で「人参じゃ、馬力出ない」など、結構笑える独白をする場面がありましたが、この挿入によって、男性は一層実態のない「影」のような存在として意識され、とても効果的だったと思います。


同公演は、YCAMの開館5周年記念事業として、約1カ月間にわたり、山口で滞在制作された新作です。YCAM の紹介で、メディアアートユニットplaplax(近森基・久能鏡子・筧康明)と共同制作を行ったことが、特色の1つとなっています。

踊り手と馬のシルエットが共演する場面は、plaplax設立以前の代表作《KAGE》(1997年)を想起させ、見どころの1つとなっていましたが、私は、舞台後半で、大小さまざまの踊り手の映像と、舞台上の女性たちが複雑に入り混じって乱舞する場面が、最大の見どころになっていたと思います。

「舞台上では直接人間に指示すれば、すぐ直せるけれど、映像との組み合わせでつくる公演では、取り直しと編集作業があって、そこに独特の時間が生まれる」という趣旨の発言が、伊藤さんとplaplaxの双方から出ました。

「メディアと身体」をめぐるYCAM開館以来の挑戦が、また1つ新たな成果を生んだことを実感しました。

同公演は、3月19日(木)から22日(日)までの4日間、世田谷パブリックシアター/シアタートラムでも上演される予定です。

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リハーサル風景 2009年2月27日21時00分 提供:山口情報芸術センター[YCAM] photo:Ryuichi Maruo(写真:丸尾隆一)



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