国際美術展・回想(10)

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2007年はヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展(6/10〜 )、アート・バーゼル(6/13〜 )、ドクメンタ(6/16〜 )、ミュンスター彫刻プロイエクテ(6/17〜 )が連続的に開幕した年でした。

この開幕の順に沿ってイタリアからスイス、ドイツへと北上して行った美術関係者の多くは、だんだんと天候が崩れ、緯度も高くなって肌寒い思いをしたと聞きます。私は、かつてバーゼルの宿を確保するのにかなり苦労した記憶からアート・フェアを割愛し、ドクメンタの開幕に合わせてヨーロッパ入りしてカッセルからミュンスター、ヴェネツィアへと移動する旅程を組みました。現地では、ほとんど同じ旅程で移動していた関西の美術関係者の一団と出会い、一緒に夕食を楽しんだりもしました。

同じ2007年の9月、日本では新たに2つのビエンナーレが開始されました。北九州国際ビエンナーレ(9/28〜10/31)と神戸ビエンナーレ(10/6〜11/25)です。また、現代日本彫刻展の名称で1960年代から続いてきた宇部市主催の野外彫刻展も07年から国際化してUBEビエンナーレを名乗るようになりました(9/29〜11/11)。さらにほぼ同じ時期、BIWAKOビエンナーレも開催されていたので(9/30〜11/18)、この2007年秋は日本でもビエンナーレの集中が見られた年だったと言えます。

もうすぐ発売される芸術批評誌『リア』に「ビエンナーレ化現象と国際美術展史料館」という一文を寄稿しています。ちょうどこの回想を投稿し始めたころに書いた小文です。国際美術展が増える中、展覧会本体の充実と並行して、開催ごとに入手される資料を蓄積して有効活用する体制も整えるべきだ、という意見を述べています。

4月に入って昨年度入手した資料を整理していたら、『マニフェスタ・ジャーナル』第6号が「アーカイヴ特集」でした。ラファル・B・ニーモエウスキ(Rafal B. Niemojewski)さんの論文もまた、ビエンナーレ化現象を総括し、史料館の活動に着目する論文で、親近感を持つと同時に、彼我の間にある言語の壁と時間のずれを意識させられました。ニーモエウスキさんの論文は、2005年冬号の掲載でしたが、同ジャーナルは予算不足のためにしばらく刊行休止になっており、昨年冬になってようやく4-6号の合併号を送ってきたのでした。

同誌の執筆者紹介によれば、ニーモエウスキさんはロンドン王立美術学校で、国際美術展の増加現象について博士論文を準備中とのことでした。多分、もう仕上がっているのではないかと想像します。

ニーモエウスキさんに限らず、アメリカやヨーロッパ、そして日本の大学でも国際美術展を主題とした論文が少しずつ書かれるようになってきているようです。

国際美術展の図録に掲載されている論文の中には、企画者や研究者、作家によって書かれた興味深い内容のものが非常に多く含まれています。特に地球規模化や多文化主義と現代美術の関係を論じた文章に示唆に富むものが見られます。

国際美術展の図録は、美術大学の図書館や美術館の図書室などで閲覧できると思います。より多くの人びとに関心を持ってもらえるよう願っています。

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ドミニク・ゴンザレス=フォレスター《ミュンスターの小説》(過去のミュンスター彫刻プロイエクテ出品作品の模型) 2007年6月19日12時15分(晴れ)

ブロガー

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