私は普段、子ども向けのワークショップに立ち会う機会が多いのですが、「子供向け」という言葉を使うときには注意が必要です。
大人になってしまうと、子供ってどんなんだったか、実は結構忘れてしまいがちだし、そもそも子供の頃のことを覚えていないこと自体に対して無自覚だったりします。
結果、子供向けという言葉は、言葉を発する当人の中に居る子供のイメージに対して向けることになり、とりもなおさずそれは、実際に目の前にいる子供の存在を見つめることを阻害してしまいます。
自然にある対象や環境と言った事物を、他の範囲から切り離し要素を抽出し固定化するのが人間の持つ言葉の魔力というか特徴ですが、言葉によって抽出する過程でその対象に対するイメージが形作られることもよくあります。子供に接する機会が少ないまま子供という言葉のイメージを作ってしまう時は、実際の子供の姿を見せなくしてしまうことがある、ということです。実はこれは、子供を実際に持つ親でさえ陥る罠でもあります。「なんでこの子は私の子供であるはずなのに、言うことを聞いてくれないんだろう」などと考えるようなシチュエーションは、よくあることかもしれませんが、それはその親の中にある子供のイメージと、実際の子供の行動が一致しないことからくる悩みと言えます。
子供と大人の違いの大きな特徴のひとつだと思うのは、扱える言葉の量と論理的な思考ステップ数の違いです。特に初めて立ち会うようなシチュエーションが現れたときに、状況を判断するための記憶の引き出しの数や、論理的な思考力によって論理や手順、可能性のバリエーションを組み立てる能力というのは、大人と子供でははっきりと違ってくるように思います。
子供の作ったものを見て「子供というのは、やはり創造性が豊かで素晴らしい」と述べる人は少なからず居るわけですが、私はそれほど子供の創造性が大人と比べて特別に高いとは思いません。大人だって素晴らしい創造性を発揮するする人は、それなりの人数がいるし、特に子供だからといってどんな子供も素晴らしい発想力や創造的な能力を備えているということは言えないと思います。子供たちがつくった成果物を見たときに、その創造性が傑出しているように「見える」ことの要因は、大人が普段使い慣れた論理的な思考パターンからは逸脱した、その定型的な枠組みに嵌まっていない(逆の言い方をすると、論理的思考の枠組みから外れている)やりかたで、造形に取り組んでいるから、それがなんだか「超越した」表現に見えてしまうということだと思います。よく観察していると「こんな発想、大人には無い!」などと喜んでいる大人を横目に「一生懸命やったんだけどこれしか出来なかったんだよな」という顔でたたずむ子供の姿を見かける事があります。
すべてのパターンがそうであると言うつもりは無いのですが、子供の創作の結果に対して「創造性」を見いだしたり、投影しているのは大人側の「見る目線」なのではないか、ということです。
画像は、YCAMで開催された建築展「Corpora in Si(gh)te | doubleNegatives Architecture(2007)」 に関連した「パスタ建築」ワークショップの様子です。
このワークショップでは参加者の人数と同じ数だけ、パスタによる建築物を造るのですが、二つの特徴があります。ひとつはオーダーカードによる指示です。各人は「高く」「強く」「美しく」といった個別のオーダーに従って目の前の建築物に手を加えていきます。ふたつめは、制作時間5分ごとに、となりの建築物へ強制的に移動させられてしまいます。このルールを絶対に守って1時間の制作。パスタをホットボンドでひたすらくっつけていきます。
決してのびのびと自由な創作とは言えませんが、結果として、どれも一人では到底思いつかないようなユニークな建物ができあがります。それらは個人の創造性に因らず、システムや環境やルール設定の影響で出来上がっています。カッパドキアの岩穴住居や九龍城、珊瑚や蟻塚などの制作過程を紹介して、実際の展示作品の鑑賞へと導きました。
初めまして。
私は、タイトルだけ見て「大人間の創造性の違い」について連想してしまったので、子供と大人の対比ということで興味深くこのエントリーを読みました。
大人になると効率を求めるがゆえに、ある程度「思考パターン」を作る必要があるのだと思いますが、その思考パターンを破るべき時は破らなければならないのでしょうね。そして、思考パターンとそれを破るべき時の使い分けも大事なのかもしれません。
正解が見えない中で、どうにかゴールに到達するための方法を試行錯誤する。そんな時に創造性が誰にでも求められていると思います。そう簡単にうまくいくわけでもないですが、異なる物との出会いは打破のきっかけを与えてくれて、私にとってはアートがその一部だったりします。
とはいえ、なかなか上手くいかないのですが…。
これからもエントリーを楽しみにしています。