09年8月13日〜8月27日
「ケータイ・スパイ・大作戦」ワークショップ
@YCAM
このワークショップは、YCAM教育普及で開発しているオリジナルワークショップのひとつで、携帯電話を使った鬼ごっこで遊びながら、ネットワーク社会のルール作りとマナーの関係を考える、という社会的な学習効果も考慮したプログラムです。今日はこのワークショップについて、実際に参加した人には見えない視点から、コンセプトの部分を解説してみようと思います。
このワークショップの基本的なルールとしては、特定のエリアの中で、一人一台の携帯電話を使って、画像をとられないように隠れながら他のプレーヤーの画像を撮り、「ケータイ・スパイ・大作戦」のウェブサイト宛に画像添付したメールを送ります。
すると、ブログのような「画像付きエントリー」が並ぶサイトができ上がるので、それを見ながら得点計算を行っていきます。撮られた人から、撮った人にポイントを渡していく、という方法です。最終的には最高ポイントの人が優勝となります。
このワークショップは、会場にもよりますが、2時間半〜4時間ぐらいのプログラムで実施しています。その中で実際に鬼ごっこをしている時間というのは合計でも45分程度です。それ以外の時間は何をしているのかというと、ほとんどが「ルールディスカッション」と「ポイント採点」に費やされています。ルールディスカッションというのは、ゲームの細かなルールを定めていく話し合いです。このワークショップでは、ネットワークユーザーが自分たちの使っている環境のルールを、ユーザーの視点から改変していき、自分たちにとって使いやすいルールを定めていく過程を、シミュレートすることを目的としています。
ネットワーク環境含む新しい環境の出現で、ルールを運用をしていく時に、「そのルールがあるから仕方なく従おう」という態度もとれると思いますが、もし不公平や不具合があった場合には、もう少し積極的に「ルール自体を考えることに参加する」という態度もとれるはずです。
あまりにも厳格なルールを設定することでメリット/デメリットの割合が悪くなってしまうぐらいなら、そこらへんは「マナー」として対処した方が得られることが多い、といったこと等も、口頭ではなかなか伝えにくい問題なのですが、実際に自分たちで遊ぶゲームのルールを作る過程で話し合いに参加することによって体感しながら上記のような微妙な問題を学んでいくことが可能になります。
また、このワークショップでは、もうひとつ重要な「メディアの暴力」の問題に触れることができます。ワークショップがスタートして間もない時間帯に、「盗撮」や「撮られて嫌な画像のアップロード」「画像万引き」といった、携帯を使ったトラブルの話をしておきます。ワークショップが進行し、ゲームを一通り遊んだあとに、「さっき話した携帯のトラブルを覚えてた人いた?」と聞いてみると、ほとんどの参加者は忘れてしまっています。メディアを使った活動の中で、メディアの暴力と言われる現象は、立場の不等価性ともいうべきもので、「相手の立場を忘れてメディアを使いこなしてしまうこと」にあると言えます。直接的で物理的な暴力と違って、行使する側に痛みを伴わない、メディアを介した暴力の危険性は、「使いこなす楽しさによって、相手の立場を忘れてしまう」という根源的な問題があるからです。この「楽しいから忘れちゃう」ということを一度でも経験しておけば、参加した人たちが将来ルール作りに携わるときに、一歩気の利いたルールが設計できるようになるかもしれません。
一回のワークショップで伝えられることというのは、それほど大層なことを伝えることはできません。大きな学びのほんの一粒のきっかけのようなものです。そのきっかけを素直に受け取ってもらうためには、「説教臭かった」という印象を持たれるよりも「楽しかった」という印象の中で経験することが重要だと思っています。