長崎県波佐見町monné porte界隈と岩井優のPolishing Housing

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こんばんは。
ふたたび九州で訪問した素敵な場所とプロジェクトをご紹介したいと思います。今回は10月31日〜11月1日にかけて訪れた長崎県波佐見町の"monné porte"(モンネポルト)というオルタナティブギャラリーと、そこでのアーティスト岩井優さんのプロジェクトです。実は九州に行くことが決まって情報収集をしていたときに、職場でふと手に取った1枚のフライヤーからこの場所を発見しました。岩井さんの作品や彼が代表を務めるsurvivartの活動は知っていて興味を持っていたこともあって、とにかく行ってみようと決断し訪問してみました。

001monneporte.jpg↑こちらがmonné porteです。

002polishinghousing.jpg↑ギャラリー内部。
波佐見町は焼き物の産地で、先日紹介した佐賀県の有田市のお隣に位置します。電車の駅はなく公共交通機関はバスのみで、周囲には窯元や陶磁器の販売所などが点在するのみです。
monné porteは築80年の廃業した窯元のろくろ場をリノベーションして3年前にスタートしたスペースで、スズキジュンコさんというアーティストがディレク ターとして運営しています。この敷地には他に"カフェmonné legui mooks"(通称ムック)というびっくりするぐらい雰囲気のいいカフェや、セレクトセンスのよい雑貨店"HANAわくすい"というお店が同じような建物 を用いて、それぞれ別々に運営されています。

なぜこんな田舎に突然こんな場所が出現したのかお聞きしたところ、西海陶器という陶磁器を扱う地元の商社が地域再生のためにこの場所を買い上げて、「なにか面白いことが出来そうな若い人に自由にやらせてみたい」という理念のもとスタートし、東京などの各地からやってきた若者たちが各々自分のやりたいことを実現しようとして今に至っているということでした。もちろん、よそ者が勝手にやって来て自己満足しているっていうのでは全然なくて、地元の人も観光客もみんなこの場所を愛用しているみたいです。

003mook.jpg↑こちら素敵なカフェmonné legui mooksです。

005hana.jpg↑雑貨屋さん"HANAわくすい"です。


実際僕も九州の友人が偶然昼食につれて来てくれたのがムックでした。食事もおいしくて素敵な場所だなと思いつつ友人にmonné porteでの岩井さんのプロジェクトのチラシをみせたところ、「それ隣だよ」といわれ、「あれっ」て感じで隣の建物に入ってみると、ちょっとしたショップ空間があって、そこを抜けるとまさにフライヤーで見たギャラリースペースがあり、しかもその中に1/1スケールの家のようなものが建てられていました。岩井さんは朝まで作業をしていたようで、この日のお昼は爆睡中でした。アポを取っていたのも翌日だったし他の用事もあったので、とりあえずこの場は去ったのですが、結局その夜一緒に飲むことになり、深夜に再びmonné porteで合流し、結局朝までかなり楽しい時間を岩井さん・スズキさんとともに過ごしました。
翌日取材も兼ねてあらためて昼前にもう一度ギャラリーを訪問し、一通りプロジェクトをご案内いただきました。

006residence.jpg↑ギャラリー内にあるこの引き戸で囲まれた部分が、岩井さんの寝泊まりするレジデンススペースです。


ギャラリー内の1/1スケールの住宅は、角材で構造を組んで、石膏ボードの壁をはり、アルミサッシのガラス窓や既製品のドアを取り付け、さらにガルバリウム鋼板の屋根が葺かれており、外から見ると完全に住宅そのものです。アーティストに出会わず、ただ一見しただけでは、「よくできた実寸模型だな」でおわってしまいがちです。でも、プロジェクトのタイトルは《polishing housing 住宅をみがくこと》。フライヤーにはさらに『家を建てて、家を磨く。「Polish」していくことで「Housing」はどのような変貌を遂げるのか。』という気になるフレーズが。。。
で、聞いてみるとやっぱり。。壮大なプロジェクトでした!
つまり、立派に建ちあげたこの住宅をあらゆる手段で磨ききり、最終的には無に帰すというものなんです!グラインダーで壁や柱やサッシを磨いて削り、ガラスは研磨剤などで磨いて溶かしていくという気の遠くなるようなプロジェクト。僕が訪問したときは、まだ家が完成したばかりでこれから磨き始めるところで、ちょっと試しの磨きを見学しました。ものの数分磨いただけで、すごい粉塵がギャラリー内に充満します。石膏ボードなので体に悪いことは間違いないのですが、とにかく粉塵が舞う様子は美しいんです。しかし、本当に3週間でこの住宅をみがききることが出来るのでしょうか?岩井さんはドキュメントの映像もしっかり押さえるそうで、プロジェクトが本当に完遂されたら、ドキュメント映像も期待大です!
ちなみに岩井さんはこれまでにも落書きされた商店のシャッターの一部だけを四角形にきれいに磨きとる《Wall wash》や、食品や生き物、食器など様々なものを水中で洗剤で洗うパフォーマンスや、それを捉えた映像作品《Galaxy wash》など、清掃や廃棄をモチーフにした作品を数々制作してきました。その上で、ここでは家を磨くということに至ったようです。

008glinder.jpg↑基本はこのグラインダーで磨いて(削って)いきます。

009foggy.jpg↑ちょっと磨いただけでこの粉末の霧。美しいけどマスクは必須です。

010iwai_suzuki.jpg↑写真中央のおどけたマスクの人が岩井優さん。右手の女性がスズキジュンコさんです。そして左端にいるのが、今回いろいろお世話になった新聞記者の山口さん。

007room.jpg↑岩井さんのお部屋の中です。

011galaxywash.jpg↑こちらギャラリー奥で上映している《Galaxy wash》という作品です。

岩井さんのプロジェクトは刺激的でとても面白いものなのですが、僕はそれが岩井さんがいいアーティストだからというだけで実現できるものではないと思います。やはり彼のプロジェクトを受け入れバックアップしているスズキジュンコさんのmonné porteとその界隈の環境が大きな要因のひとつになると思います。感覚的な話をするわけではないですが、そこに流れている"空気"というのは本当に重要で、それを作家は鋭敏に嗅ぎ取るし、そういう空気が充満している場所では大体面白いことが起こっています。
そして、ここにはそんな"心地よい空気"が流れていました。近所で美味しいご飯が食べられて、(観光客も含めて)色んな人がやってくる場所で、彼の作品の経過を定期的に見に来る地元のリピーターもいるというのも、岩井さんにとってよい滞在につながっているのではと思います。

004mook_porte.jpg↑手前がカフェmonné legui mooks、奥がmonné porteです。ほんとに素敵な場所でした。

それにしても、訪問から2週間たった現在この家がどれだけ磨かれているのか、とても気になります。どなかた訪問されたかたがいたら是非コメントで写真も投稿してください!

こういう場所って、実は全国にいっぱいあるんでしょうね。今後も色々こまめにチェックしていきたいと思います。

ブロガー

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