フランスの思想家ロジェ・カイヨワは遊びを「未確定な活動」「非生産的な活動」と規定した。本展で扱う「遊び」もまた、生産を目的とせず、結果が未知であり、効率や成果を一度手放すことで思いがけない発見や変化を受け入れる態度である。

本展『PIECRUST』は「絵を描くこと」を取り巻く遊びや発見のプロセスを見つめることを目的とする。私たちはしばしば、無意識に、あるいは意識的にそこにあるものを押しのけて、新たな空白を生み出したと錯覚してしまうことがある。しかし、ほとんどの物事は、既に存在するものの組み合わせやその存在によって見出された余白からなるものではないだろうか。陽心、Yok’s Worthless Comics、小磯竜也は、いまこの世界にある物事とその余白を見つめている。

陽心は粘土で支持体を作り、それらを観察し、思い浮かべたイメージを元に絵を描く。そうして生まれた立体的な絵画は、生活の中に入り込み、日常を面白く明るいものに変容することが前提とされている。そのためには彼自身も常に新鮮な感覚である必要があり、不慣れな素材を選んだり、描いたことのない支持体を探したりなど、予想外なものが生み出されるよう、注意を払っている。

Yok’s Worthless Comicsの制作は、支持体や画材となるものを日常の中から探し出すことから始まる。例えばスーパーに置いてあるチラシや家の近くで拾った貝殻、文房具屋で買った水性マーカー、フエキノリなど。本展では、貝殻に日常の風景を日記のように日々描き綴った作品を発表する。支持体が一般的な矩形のキャンバスではなく貝殻であることが、日常の記録性を強化している。

小磯竜也は本展で唯一、大学で絵画を専攻していたが、彼は当初から自発的な絵画を描くことよりも、その場や状況に適した絵を模索するデザイナー的なアプローチを行なっていた。現在はグラフィックデザイナーとして活躍しており、AIやデジタルを活用するデザインが一般的な現代では稀な、手描きした絵をコラージュするなど身体的でアナログなデザインを生み出している。

彼らは絵を描く動機やプロセスが異なるが、いずれも「遊び」の態度から作品を生み出している。彼らの実践に見られる「遊び」の態度は、今あるものとそれらの隙間をじっくりと見つめ、そこから何ができるかを考えることであり、その先で生まれるものの意外性や偶然性が、本物の空白を生み出す可能性を秘めているのではないだろうか。

会期中に行うシルクスクリーンのワークショップや、トークとワークからなるイベント「交差点#10《2から作る》」では、この「遊び」を軸に彼らの作品や制作過程に触れていく。「PIECRUST」に並ぶ作品とその余白を、お楽しみいただければ幸いである。