千崎千恵夫(1953–)は東京藝術大学に在学中の1979年にその本格的なキャリアの第一歩を踏み出した広島県呉市出身のアーティストです。1980年代を通して、時に、建築内外の空間を取り込む大規模なインスタレーションを展開しながら「自然と人工」というテーマを追い求めた千崎は、ドイツに滞在中の1990年頃を境に単体の作品のシリーズ、あるいはそれらを構成要素とするインスタレーションによって同じテーマをさらに多角的に探求するようになりました。本展は、この1990年以後に制作された最新作を含む約100点の作品で構成されます。
千崎は「自然」と「人工」を切り離し対立的に捉えるのではなく、両者をひとつづきのものとして捉え、そのあいだに立つ人間のあり様を見極めようとします。そのような彼の眼差しは、広島の街が経験した原爆の惨禍、すなわち自然界の物質に宿る膨大なエネルギーを取り出すという人為がもたらした決して言葉のおよぶことのない重大な事実を知り、その爪痕を目にすることを通して少しずつかたちづくられたものでした。そして今回の展覧会タイトルにある「眼差しの奥にむかって」という言葉には、単にものごとの外形的な表面を見るのではなく、その奥、さらにその奥へと眼差しを送り込むことで対象が宿す不可視の普遍性をも見ようとする作家の意志が込められています。表面的な価値観の違いが容易に分断を引き起こし、あらゆる場所で対立が深まる現代社会の混迷の中にあって、千崎の眼差しはその状況を乗り越えるための道筋を必ずや指し示してくれることでしょう。