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メセナ日記−1
熊倉純子

○月×日 とにかく企業の扉をたたいてみよう!

スタジオ食堂の3人と某電気メーカーに協賛のお願いに行く(普段は企業の紹介などしないのだが、これは当方の機関誌の取材のため特別)。メセナはなぜかどこもクラシック音楽が多いのだが、なかでもこの会社の担当者はクラシックのエキスパート。現代美術のアトリエ+オープンスペースの話はかなりの苦戦を強いられた。それでも「音楽の協賛依頼は多いが、美術の話はほとんど来ない。勉強になりました」とていねいに話を聞いてくれた。大企業の応接室という慣れない環境に顔がこわばりがちだったアーティストたちも、ほっと顔がほころぶ。企業だってメセナの専任部署があれば門前払いとは限らない。みんながもっと足を運んで門をたたけば、ブレイク・スルーがあるかもしれない。協賛は無理でも、胸をかりるつもりで行けばいろいろ企業めぐりのアドバイスもしてもらえる。

○月×日 ネットワークがメセナの醍醐味

メセナはクラシック音楽ばかり、とぼやいた舌の根も乾かぬうちに、トヨタの創立60周年を記念する「トヨタ・フィルハーモニック・マスタープレイヤーズ、ベルリン」のコンサートでサントリーホールへ。予定調和が苦手な私は、めったにクラシックの名曲コンサートには行かないのだが、名手の演奏は天才スポーツ選手のパフォーマンスにも似ていたく官能的。もっともいくら世界のトヨタとて、突然思いついてカラヤンゆかりの名手たちを呼び集められるわけもない。長年の音楽界とのつきあいが築いた信頼と人的ネットワークのたまものだ。メセナの醍醐味は、ひとつの出会いが連鎖的に多くの遭遇をもたらし、そうしたつながりの中から時に「結び目」がうまれてアートの花が咲くことだ。企業や行政のメセナ担当者とお友達になったら、独り占めはいけない。どんどん連れ出して、みんなに紹介しよう!

○月×日 メセナは社会に窓を穿つ作業では?

「柏市文化フォーラム104」の「関口芸術基金賞」入選展へ。地元の中小企業のメセナ活動で、全国から絵画を公募、グランプリの賞品は半年間のニューヨーク滞在。地域の芸術振興というと「地元のアートを地元の人たちが享受する」というのが多い。地域の伝統文化保存とかアマチュア文化活動とか、それはそれで確かに意義がある。が、ことアートとなると「地元の、地元による、地元のための」アートだけでいいのか? 村祭の時にやってきた芝居の一座のように、アーティストというアウトサイダーがもたらす非日常の体験だからこそ、アートは観る者をぽーんと遠くに放り投げるパワーがあるのじゃなかろうか。その点、この東葉産業のメセナは東京なんかに目もくれず、全国から公募して柏で発表、あとはアメリカ行って来い、というのだから潔い。さらに高望みをすると、せっかくレベルが高い入選作が一堂に会しているのだから、おとなしく並んで展示されているだけでなく、地域社会の風穴となるような「しかけ」として機能させるとすごいのだが。

スタジオ食堂
http://www.dnp.co.jp/museum/nmp/nmp_b/gallery/shokudo/index_j.html

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