reviews & critiques ||| レヴュー&批評 |
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メセナ日記−5
アーティスト・イン・レジデンスについて−1
――日本の過疎の村にアーティストが滞在 |
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熊倉純子 |
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11月×日
文化庁のアーティスト・イン・レジデンス(以下AIRと略)事業の現地見回り役で、高知へ。全国で自治体が実施する10の事業に今年から文化庁が助成するという。
「高知のチベット」の入口である土佐町。あの早明浦ダムのほとりではランドアートをやっている。人口5千人の林業の町。子供たちが遊びながら森の植生を学べる木遊館というユニークな文化施設もある。ここでのAIRには美術関係者は全くかかわっていない。推進役は町の企画課で木遊館担当の上村氏。ある日、森林局の職員がインターネットでイギリスのアーティストが日本の山でランドアートをやりたいといっている事を知った。翌日、彼は役場で上村氏に聞いた。
「おい、ランドアートって知ってるか?」
「何だそれ」。
翌日から上村氏の調査がはじまった。県美を訪ね、「砂浜美術館」を訪ね、そして日本のランドアーティスト大久保英治に出会ったのだ。96年は大久保氏と英国人作家クリス・デュルリーの2人が2か月滞在し、近隣5町村の山中に10点に及ぶ作品を作った。
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11月○日
2年目の今年。この日は大久保氏によるワークショップ。森林公園のキャンプ場に近隣の町や村から15人ほど集まり、思い思いに草木や大地を素材に制作にいそしむ。
うららかな秋の1日。時々制作状況を見て回る。講師の大久保氏より上村氏のほうがはるかに能弁だ。さすが自然の専門家、素材との取り組み方に対して辛辣な批評も飛び出す。
スタッフはもちろん土佐町の職員だが、参加者にも町や村の役場の人がちらほら。自然と人為の関係を根本から問いなおすランドアートの実践は、何よりの職員研修だと感心する。また、子連れの若いお母さんが多いのも頼もしかった。 |
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11月△日
おなじ文化庁の見回り役で淡路島へ。棚田が広がる津名町長沢地区の民家に内外の作家が4名滞在し、日本の木版画の技法を学ぶ。調整役で案内をしてくださったアートクエストの門田さんによると、水彩を用いた日本の木版は世界でも珍しい技法なんだそうだ。日本、インドネシア、タイからは若手男性作家、カナダから招かれた女性は、モントリオールで版画工房を主宰するベテラン刷り師である。
宿舎は空き家となった民家。水回りはリフォームされているが、懐かしい日本の家だ。公民館の和室で刷りの実技研修を拝見する。なかなかムズカシそうで、初挑戦のアーティストたちは悪戦苦闘している。 |
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11月□日
欧米のAIRは作家が滞在中自由に過ごす「自習型」のものが多い。一方、日本の自治体のものは他の滞在作家とのコラボレーションや地域住民との交流が設定された「合宿研修型」のものが主流だ。3か月以下の短期プログラムなら目的が明確な後者のほうが適切だし、自治体が主催するからには地域との交流が必須条件なのは当然である。ただし「自習型」しか向かないアーティストもいるので、交流プログラムを「義務」ではなく制作に不可欠な「触媒」と捉えてくれるような作家を選定することがポイントとなる。
あとは調整役の腕次第。滞在作家を縛らず、寂しがらせず、地元住民をうまく巻き込んで、好奇心を関心に、ちょっかいをボランティアにまで高める辣腕が必要だ。2つの過疎の村で、調整役の活躍が目に染みた秋だった。 |
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