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メセナ日記−2
熊倉純子

8月○日 フランクフルト−内藤礼をバックアップした日本企業

猫も杓子も私もと、遅ればせながら「ヨーロッパ現代美術巡礼の旅97」に出かけた。
 前号で森司氏がインタビューした内藤礼の新作展は、資生堂・アサヒビール・日産自動車・JALが協賛。この夏ヴェネチア・ビエンナーレにも出展した彼女だが、急遽今年になって開催が決まったヴェネチアとちがって、フランクフルトは何年もかけたプロジェクト。ずっと彼女を見守ってきた日本企業が「なに、フランクフルトで新作? それじゃ応援しなくっちゃ」と、彼女を送り出すのに一役買った、素朴なほど純粋なお話。
 一方ヴェネチアは「日本国代表」である。タイムや距離を競うわけじゃないからオリンピック以上に政治力のパワーゲームが展開する。そんなもんに巻き込まれて大丈夫かと当初から懸念していたところに入院の知らせ。ひどく心配したが、退院した彼女はさばさばした笑顔でひとまわり強靭になった感じ。

8月×日 ドクメンタ-ドイツ鉄道とハンス・ハーケ

今回のドクメンタはドイツ国鉄のメセナを受けている。切符にも車両にも車内の時刻表にもドクメンタのロゴや案内が。300キロ以内なら2人で往復99マルク(\6700)というドクメンタ特別割引切符まである。こういうのはJRもやってくれないかな。展覧会もカッセルの駅から始まっている。
 駅前広場にハーケの作品。円筒形の広告塔に貼られたポスターで、「企業スポンサーが芸術をダメにする」とメセナがクソミソに言われている。フランスの社会学者ピエール・ブルデューと対談し、企業メセナをボロクソに叩いた本まで出しているハーケ。ユーモアのかけらもなく真っ向から国家権力や資本主義をたたきのめすのが彼の作品の迫力なんだけど、言語によるプロパガンダはどうも論理が紋切り型になりがちだ。

8月×日 ドクメンタ−せっかくのソニーの機材提供だけど

ちなみに展覧会は写真とヴィデオの連続で、素人衆には恐ろしく不親切な代物。観光シーズンたけなわ、ドイチェ・バーン(国鉄)のキャンペーンが功を奏したのか、フツーのおじちゃんおばちゃんでごった返す会場は、30度を超す蒸し暑さ。ソニーの機材提供で「犬もあるけばヴィデオに当たる」状態だが、だれも長くはとどまらず、結局垂れ流し。あまりに大量の映像は無力化し、私のような観光客はひどく不幸な出会いをした気になった。いっそ図書館にしてくれればゆっくり「回想」に耽ることもできたのに、と無理は承知のないものねだり。

8月△日 ヴェネチア−[過去・現在・未来」でオメガ?

ビエンナーレ会場。先進国のパヴィリオンが立ち並ぶ裏側、運河の向こうに、東欧や南米などのパヴィリオンが目立つ一角がある。その中央のヴェネチア館はスポンサー館である。やけくそに近い展覧会テーマ「過去・現在・未来」と関係があるのかないのか、スポンサーはオメガ。テーマなんぞどこへやらの展覧会とは裏腹に、オメガは真面目に過去の広告を展示し、現在の製品を陳列している。
 毎回ここでは違和感を感じる。「展覧会場にスポンサー企業が製品を出すのはあまりに露骨。これじゃハーケに何をいわれてもしょうがない」という常識人の怒りだけではない。「メセナなんか企業の罪滅ぼし」とはよく言われるが、うらぶれたヴェネチア館はいかにもアート側がしぶしぶスポンサーのご機嫌取りをしている感があるのだ。一方、もうひとつのスポンサー、フォルクスワーゲンは「ニュービートル」を展示(これがカワイイ!)。こちらは新製品なのかどうか判然としない投げやりな展示で、むしろヴェネチア館の雰囲気にぴったりだった。

企業メセナ協議会
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http://www.mecenat.or.jp/profile/profile.html

企業サイト
http://www.mecenat.or.jp/link/link.html

資生堂
資生堂についてよく知っていただくために
http://www.shiseido.co.jp/index4.htm#c

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