著者:小泉誠、長町美和子
写真:村角創一
発行:エクスナレッジ
発行日:2024/03/12
公式サイト:https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767832364

本書を読みながらハタと気がついた。わが家には小泉誠のデザインした製品が結構あるのではないかと。私の亡き夫が小泉(本音は親しみを込めて「小泉さん」)と生前、親交があったことも影響しているが、日本の手工業の素朴な魅力を引き出した、温かみのあるシンプルなデザインが好きだったのだ。という思い出話はさておき、小泉は日本全国のさまざまな産地で手堅くものづくりをしている数少ないデザイナーのひとりである。

同書の元となった全日空の機内誌『翼の王国』での連載記事は、私も飛行機に乗るたびに目にしていたことがある。その頃から、書き手の長町美和子との和気あいあいとした雰囲気は感じていたが、一冊の書籍となり、それがいっそう顕著になったようだ。正直、デザイン書でこんなにも自由に書かれた本はない。小泉は確かに職人気質で情熱のあふれるデザイナーであるが、あれ? こんなにもお茶目な人だったかなと思うほど、ずいぶん、キャラクター化されているのである。専門的な情報を抑えつつも、彼の熱すぎる思いや素顔をうまく茶化し、小気味良い掛け合いを加えて、面白おかしい文章に仕上げているのだ。その分、メーカーの基本情報が手薄であるのが気になるが、それも含めて型にはまらない本づくりをしたのだろう。

例えば四万十檜で非常に薄いまな板づくりをしたという事例。実はこのまな板もわが家でずっと使っていたのでよく知っているが、これは軽くて、穴が空いているので上から吊るせて、薄さゆえの不便さをまったく感じさせない製品である。ところが同書では「デザイナーとメーカーの関係って恋愛と同じだと思うんだよ」という小泉の話に引っ掛けて、全編が恋愛話仕立てとなっている。最後まで読んだ後に一体何の話なんだ? と思わずツッコミたくなるが、小泉もメーカーの社長も職人も皆、熱い志を持って製品開発をしたことだけはしっかりと伝わる。案外、こんな伝え方も良いのかもしれないと思えてしまった。ちなみにタイトルに「方程式」とあるが、なぜそんな言葉を使ったのだろうと思うほど、決して論理的思考の本ではないことを付け加えておく。

執筆日:2024/05/07(火)