春季のハイライトから
2025年春のニューヨーク・アートシーンは、不安定な社会状況とは裏腹に、Frieze New YorkやINDEPENDENTなどのアートフェアの盛況だけでなく、市内の主要美術館が企画した展覧会が特に注目を集めた。
まずオープン前から話題に上がっていたのがラシッド・ジョンソンの大規模な回顧展「Rashid Johnson: A Poem for Deep Thinkers (ラシッド・ジョンソン:ディープシンカーのための詩)ソロモン・R・グッゲンハイム美術館(2025/04/18-2026/01/18) 。ジョンソン(1977-、シカゴ出身)は2001年にスタジオ・ミュージアム・イン・ハーレムのグループ展でデビューしてから瞬く間にスターアーティストとなった。ポスト・ブラック・アートと言われ、黒人の文化的アイデンティティを革新的に描き出し、アート界に強いインパクトを与えている。作品は黒い石鹸やスプレー・ペイント、タイル、鏡、植物の棚のインスタレーションなど、さまざまな素材を使った独特な表現だ。彼自身の精神世界に音楽や黒人文化、文学が融合し、文化的・社会的なコンテクストが巧みに交錯する。
Rashid Johnson, The Broken Five , 2019 (detail). Ceramic tile, mirror tile, branded red oak flooring, vinyl, spray enamel, oil stick, black soap, and wax, 97 1/4 × 156 1/2 × 2 1/8 inches (247 × 397.5 × 5.4cm). [Image courtesy the artist © Rashid Johnson, 2024. Photo: Martin Parsekian]
「Rashid Johnson: A Poem for Deep Thinkers」展覧会風景
また同館の常設展会場では収蔵作品から、ハーレム出身の黒人女性作家、活動家、詩人、パフォーマーでもあるフェイス・リンゴールド(1930-2024)の作品にフォーカスを当てた「The Reach of Faith Ringgold」展(2025/05/09-09/14) のパワーには惹きつけられる。ピカソやシャガールの代表的な収蔵作品と比較展示されたキルト作品に、リンゴールドが辿ったアメリカ物語りが縫い込まれている。そして、とりわけポピュラーなのがエイミー・シェラルド(1973-、ジョージア州出身)の「Amy Sherald: American Sublime」ホイットニー美術館(2025/04/09-08/10)。アーティストを知らなくても、ミシェル・オバマの肖像画のイメージや、ファッション誌ヴォーグやヴァニティフェアなどの表紙を飾り、そのスタイリッシュな肖像画は、美術館や画廊以外でも街のキオスクや本屋の棚に並び、身近なものになっている。ミシェル・オバマの肖像画は、ワシントンD.C.のナショナル・ポートレート・ギャラリーから公式肖像画の委託として制作されたが、シェラルドは彼女を「前大統領ファーストレディ」としてではなく、「普通」のアメリカ黒人として描いている。彼女の作風は、肌の色をグレースケールで描くグリザイユを手法とし、「肌の色=人種」から、「人間性」に着目させることが念頭にあるという。「いま、私たちは毎日のように抹消について話さずにはいられません。黒人を描く、あるいは黒人であるということだけで政治的になってしまいますが、私が描く一つひとつの肖像画が、アメリカと、黒人アメリカの歴史を孕む、あたかも「カウンターテロ行為」とさえ感じられるのです。(中略)作品が周縁化されて、アイデンティティや人種だけのテーマに矮小化されることは望みません。描かれた見た目だけでなく、私たち全員が理解できるものとして世界のなかに存在してほしいのです」★1。
Faith Ringgold, Woman on a Bridge #1 of 5: Tar Beach, (1988). Solomon R. Guggenheim Museum, New York Gift, Mr. and Mrs. Gus and Judith Leiber [© 2024 Faith Ringgold / Artists Rights Society (ARS), New York, Courtesy ACA Galleries, New York.]
Amy Sherald, Michelle LaVaughn Robinson Obama, (2018), Oil on linen, (183.1 × 152.7 × 7cm). National Portrait Gallery, Smithsonian Institution. The National Portrait Gallery is grateful to the following lead donors for their support of the Obama portraits: Kate Capshaw and Steven Spielberg; Judith Kern and Kent Whealy; Tommie L. Pegues and Donald A. Capoccia.[Courtesy of the Smithsonian’s National Portrait Gallery]
もう一点、今季のブロックバスター的展覧会は黒人のファッション史とデザイナーにフォーカスを当てた「Superfine: Tailoring Black Style」(メトロポリタン美術館、2025/05/10-10/26)だ。タイトルから容易に想像できそうだが、ブラック・デザイナーが仕立てたスーツやフォーマルウェアの歴史からスーパーカジュアルといった近年のモダン・ブラックスタイルにおけるメンズウェアの辿ってきたファッションが披露されている。「ダンディズム」という言葉からヒントを得たという展覧会は、いまどきのアメリカのサブジェクト(かつて力も上質な服も持つことを許されなかった人々にとって、服がいかに勇気を与えてきたか)を語るだけでなく、ファッションを「言葉」としてとらえている若手デザイナー、ジャック・アグボグリーを筆頭にアイデンティティの表現、文化の誇り、社会的メッセージを込めた内容だ。
市内各所、そしてブルックリン美術館での写真展「Consuelo Kanaga: Catch the Spirit(コンスエロ・カナガ:魂をとらえて)」(2025/03/14-08/03)も必見だ。コンスエロ・カナガ(1894-1978、コロラド州出身)は当時では稀な白人女性報道写真家で、これまで見過ごされてきたアーティストだ。60年にわたりカメラを通して、黒人社会、都市の貧困、労働者の権利、人種的暴力や不平等といった同時代の喫緊の社会問題に立ち向かった。
Gallery view of “Superfine: Tailoring Black Style.” The Lila Acheson Wallace Wing, The Iris and B. Gerald Cantor Exhibition Hall (Gallery 999). May 2025
Frances Benjamin Johnston (American, 1864–1952). Tailor boys at work, (1899–1900). Platinum print, 7 1/2 x 9 1/2 in. (19.1 x 24 cm). The Museum of Modern Art, New York, Gift of Lincoln Kirstein (859.1965.86)
トランプ政権下での教育・文化予算の削減および芸術基金の廃止
前回のトランプ政権下(2017-2021)において、多くのアーティストが政治的·社会的テーマを掲げて、移民政策・人種差別・ジェンダー・環境問題などにフォーカスした表現をとっていった。美術館やギャラリーもBLM(Black Lives Matter)やLGBTQ+支援などに積極的に関与するようになり、美術界に何世紀も蔓延し続ける白人男性中心の構造に対する批判がこれを機に強まり、黒人やラテン系、アジア系、先住民、女性アーティストが力を発揮した。前記のエイミー・シェラルドやケヒンデ・ワイリーも注目された。そして文化予算削減が懸念されるなか、アーティストや非営利団体はクラウド・ファンディングや地域に根ざす活動を強化していった。つまり政治状況がむしろアートシーンを活性化させ、現代美術は社会の声としての役割を明確にした時期だったのだ。
そしていま、新政権が発足してわずか100日足らずで世界を揺るがし、アート界への影響も予想をはるかに超える事態となっている。現代アートだけではなく教育・音楽・映画界への打撃は計り知れない。ニュースでも次々と芸術基金の廃止が報じられているが★2、さらに米国外で製作された映画に100パーセントの関税を課すという発表が突然あり、ハリウッド映画界に衝撃が広がった。俳優のロバート・デニーロは今年5月13日カンヌ映画祭授賞式スピーチで「私の国ではかつて当たり前だと思っていた民主主義を守るために、いま、私は必死に闘っています」と、ショービジネス界の大物たちを前に語った。「それは、ここにいる私たち全員に関わることです。なぜなら、芸術は民主的で、多様性を包み込み、人々をひとつにする力がある——今夜のように。真実を求め、多様性を受け入れる。だからこそ、芸術は脅威とみなされるのです。(中略)創造性には値段をつけられないのに、どうやら関税はかけられるようです。もちろん、こんなことは受け入れられません」★3。
また芸術・文化活動への助成や奨励を目的として1965年に設立された連邦政府が運営する芸術支援機関で、舞台芸術、ビジュアルアート、文学、教育など幅広い分野に助成金を提供する全米最大の機関NEA(全米芸術基金、National Endowment for the Arts)を、5月に完全に廃止する提案を発表した。その直後に、全米の大小さまざまな芸術団体が、助成金の撤回と終了の通知を受けた。身近なところでは、ニューヨークで最もポピュラーな公共ラジオ番組NPR(National Public Radio)、夏の風物詩であるセントラルパーク・サマー・ステージ、西海岸ではサンフランシスコの重要な芸術劇場バークレー・レパートリー・シアターなどがその対象になっている。とくにマサチューセッツ現代美術館(Mass MoCA)で昨年9月から開催されているジェフリー・ギブソンの「POWER FULL BECAUSE WE’RE DIFFERENT」展(2024/11/03-2026/08) への助成が取り消されたニュースは、多くのメディアが取り上げた。というのも、ギブソンは2024年のヴェネツィア・ビエンナーレで米国代表として初めて選ばれた先住民アーティストで、その芸術性の高さは高評価を得、昨年度NEAから5万ドルの助成金が授与されることに決まっていたのだ。それが5月2日にメールで一方的に取り消しの連絡があったという。「国家の豊かな芸術遺産と創造性を反映したプロジェクトの対象外」であるというのがその理由だ★4。同館はほかにも、美術館スタッフ向けのテクノロジー研修に関する博物館・図書館サービス機構(IMLS: Institute of Museum and Library Services)からの助成金も喪失した。「もはやアメリカの国益にかなっていない」との説明★5。ギブソンの同館での展覧会は8月までだが、ギブソンがヴェネツィア・ビエンナーレで発表した歴史的な作品が、ロサンゼルスのザ・ブロードで展示され、注目を集めている。現代美術作品の個人コレクションでは世界でも最大級を誇る美術館だ。連邦基金に左右されず、ギブソンの先住民の歴史とクィア文化が大胆な色彩の爆発のうえで存分に交差している。
Detail of Jeffrey Gibson’s Venice Bienniale artworks, which have been reinstalled at L.A.’s Broad museum.[photo: Timothy Schenck]
設立以来、NEAは総額55億ドルの助成金を提供してきた、米国最大の芸術支援機関でありながら、連邦政府のなかでは最も小規模な機関のひとつだ。2022年の年間予算は2億700万ドルで、これは連邦予算全体の0.003%というごくわずかな割合にすぎない★6。共和党政権下ではこれまでも、NEAの予算削減や廃止が提案されており、前回の政権初期にも同様の動きはあった。しかし、NEAは「全米すべての議会選挙区において、芸術団体やアーティストを支援している」とされ、党派を超えて幅広い支持を受けてきた歴史がある。そういった経緯のなかでの今回の機関廃止の提案は、多方面からの批判を集めている。そもそもNEA自体を廃止するには、連邦議会の過半数による承認が必要だ。全米アーツ擁護団体のAmericans for the ArtsのCEOエリン・ハーキーは「NEAの解体、すなわち予算の削減、人員の縮小、助成金の取り消しといったいかなる施策も、極めて憂慮すべき事態です。短絡的で、国家にとっての損失です。NEAは何百万人もの米国人を支え、そして非営利団体や地方自治体による芸術文化活動にとって不可欠な存在で、アメリカの本質を表わす“語り部”として機能しているのです」とNPRで述べている★7。いずれにしてもNEAからは正式なメディアへのコメントはまだ無い。
ではトランプ政権が優先する助成プログラムはいったい何かというと、歴史的黒人大学(HBCUs: Historically black colleges and universities)とヒスパニック系大学支援、米国250周年祝賀、AIに関する技術促進、宗教施設を地域支援の拠点として強化、自然災害からの復興支援、職人・技能職育成、米国健康促進、軍人・退役軍人支援、先住民部族コミュニティ支援、ワシントン D.C.の安全と美化、アジア系米国人コミュニティ経済発展支援などである。ちなみに2026年度のヴェネチア・ビエンナーレ米国館の公募がすでに始まっているが、トランプ政権下の新方針に基づき「アメリカ的価値観」と「アメリカ例外主義」を優先し、「DEI(多様性、公平性、インクルージョン)を推進するコンセプト」を制限する内容となっている。
また、異議申し立てを申請しているのは教育機関や非営利文化団体だけではない。ラテン系アーティストを支援するRhode Island Latino Arts、有色人種のクィアやトランスジェンダーのための作品、あるいは当事者による作品を発表しているボストンのThe Theater Offensive、性的マイノリティが犯罪、またはその表現が検閲の対象になる国のアーティストの作品を紹介するCriminal Queerness Festivalで知られるニューヨークの国立クィア劇場なども声をあげているのだ。この訴訟で団体側の代理を務めるアメリカ自由人権協会(ACLU: American Civil Liberties Union)は訴状のなかで、「NEAの新しい規則は、全米のアートプロジェクトの資金調達に混乱を引き起こしている」と主張している。助成金の申請者に対し、連邦資金は「『ジェンダー・イデオロギー』の推進に使用しないことに同意するように」と求めたのだ。大統領令のなかで、ジェンダー・イデオロギーとは「男性が女性として自認できる、またその逆も可能であるという虚偽の主張」を含むと言及している★8。こうしたLGBTQフェスティバルの助成金の打ち切りも深刻な問題となっている。Criminal Queerness Festivalは、全予算の20%を占めていたNEAからの2万ドルの助成金を取り消されたことを受け、オンラインでの資金調達に踏み切った。また全米最大のLGBTQパレードであるニューヨーク・プライドでは、企業からの寄付の25%が、経済の不確実性やトランプ政権からの報復への懸念を理由に、支援取りやめか縮小を決定★9。「ニューヨークのプライドイベントをすべての人にとって無料でアクセス可能なものに保ち続ける」ために、草の根の資金調達キャンペーンの開始を発表した。約1カ月後の6月29日の開催日までの目標額は25,000ドル(約360万円)だ。
立ち上がる民間の緊急基金
芸術基金が壊滅的な状況下であるが、5月5日開催されたメトロポリタン美術館恒例の通称「Met Gala」はコスチューム・インスティテュート(服飾部門)が主催する運営資金調達の一大チャリティイベントで、世界的なセレブリティ、デザイナー、アーティストが500名以上召喚される全米ファッション界でも最大級のイベントだ。アート界からは前述したグッゲンハイム美術館で個展が開催されているラシッド・ジョンソンも招待された。『VOGUE』誌の編集長アナ・ウィンターが統括し、ルイ・ヴィトンのメンズ部門クリエイティブ・ディレクターでもある音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムスやコールマン・ドミンゴ、ルイス・ハミルトン、エイサップ・ロッキーも参画チームのメンバー。今年のドレスコードは「Tailored for You(あなたのために仕立てた)」で、特別仕立ての一点もののファッションはまさにアート、純白の長い尾鰭のあるドレスを華麗に纏ったダイアナ・ロスの出立ちは圧巻だった。着用したのは、息子エヴァン・ロスとデザイナーのウーゴ・モジエがコラボしたドレス。約5.5メートルのトレーン(引き裾)の裏側には子どもたちと孫たちの名前が刺繍されていた。それよりも瞠目すべきは、目下の不景気と文化・芸術助成金削減で資金調達も難しい現状で、予想を遥かに上回る3100万ドル(約45億円)という過去最高額を記録したことだ。国の文化支援がなくてもアートを支える人々の熱量を見せつけた。
クリスタルが散りばめられたカスタムメイドの白いガウンのダイアナ・ロス。Met Gala 2025[GETTY IMAGES]
同館だけでなく、多くの美術館はこれまでプライベート基金や企業協賛で運営資金を調達しているが、5月にはアンディー・ウォーホル財団、ヘレン・フランケンサーラー財団が緊急基金として小規模から中規模の80の芸術団体プログラムに対して、合計80万ドル(約115万円)の助成金を分配することを発表。アメリカで最大の非連邦系芸術・人文科学助成団体であるメロン財団は、国立人文科学基金(NEH: The National Endowment for the Humanities)の助成停止の代わりに、州人文協議会連合(FSHC: Federation of State Humanities Councils)に1500万ドル(約21億円)の緊急資金を米国50州と管轄区域の6州の協議会に分配する★10。米国アート界はいかなる状況でも、ありとあらゆる方法で理念を貫き続けている。政治・経済を変えることはできないが、自由を希求し、真実を追求し、人の心を動かす力はアートにしかないのだ。
秋以降に開催される意欲的な展覧会
最後に、これから秋以降に開催予定の多様性に溢れる美術館展を紹介しておこう。「The Gatherers」(MoMa PS1、2025/04/24-10/06)は、ゴミのような情報と世界的な廃棄物の過剰さに取り組む芸術的な実践に焦点を当てる。米国美術館でのデビューとなるアーティストも含め、14人の国際的なアーティストが参加。グローバリゼーションや新自由主義の影響や失敗といった世界秩序の課題に直面する世代による展覧会である。
Installation view of The Gatherers, on view at MoMA PS1 from April 24 through October 6, 2025.[Courtesy MoMA PS1. Photo: Kris Graves]
Emilija Škarnulyté. Burial. 2022. Single-channel video (color, sound), 60 min. Installation view of The Gatherers, on view at MoMA PS1 from April 24 through October 6, 2025.[Courtesy MoMA PS1. Photo: Kris Graves]
「Ruth Asawa: A Retrospective」(MoMA、2025/10/19-2026/02/07)。日本からの移民である両親のもと、カリフォルニア州ノーワークで生まれ、美術家・教育者として生涯活動したルース・アサワ(1926-2013)。第二次世界大戦中は、家族とともに日系人強制収容所に収容される。その作品は自然や有機的な形態から着想を得た繊細なワイヤー彫刻で高く評価されている。米国の教育と芸術に多大な貢献をしたアサワの功績が称えられ、数年前には記念切手にも作品が起用されポピュラーな存在となった。サンフランシスコ近代美術館との共催展。
「Kunié Sugiura: Photopainting」(サンフランシスコ近代美術館、2025/04/26-09/14)。米国初の大規模な回顧展。杉浦邦恵は1942年、名古屋市に生まれ、1963年に渡米。シカゴ美術館附属美術大学で写真を専攻し、卒業後ニューヨークを拠点とする。60年以上にわたり写真というメディアを独自に探求するその作品は、バイカルチュラルなアイデンティティを表現している。それは日本とアメリカ、有機的なものと人工的なもの、絵画と写真といった二項対立の均衡だ。
Kunié Sugiura, Deadend Street, 1978; San Francisco Museum of Modern Art, purchase, by exchange, through gifts of Peggy Guggenheim and Mr. and Mrs. Louis Honig; [© Kunié Sugiura; photo: Tenari Tuatagaloa]
Kunié Sugiura[photo:Robert Palumbo]
「Yoko Ono: Music of the Mind」(シカゴ現代美術館、2025/10/18-2026/02/22)。本展はロンドンのテート・モダンで開催され、米国で唯一の巡回展となる。アーティスト・音楽家・平和活動家として知られるヨーコ・オノの1950年代から70年間におよぶキャリアのなかから「アイデアに突き動かされ、詩的でユーモアと深い意味を備えた」200点以上の作品を紹介。
「Path to Liberty: The Emergence of a Nation (自由への道:国家の誕生)」(フランシス・タバーン博物館、2025/04/22-終了日未定)。これまでニューヨークのアートシーンで紹介されることはあまりなかったが、独立戦争中には砲弾の直撃を受けた歴史の証人でもあるこの博物館は多くの意味で注目を集めている。かつて「自由の息子たち(Sons of Liberty:アメリカ独立革命の火付け役となった急進的な愛国者グループ)」の集会所として使われ、自由のために戦った数千人の黒人解放の裁判が行なわれた場所だ。祖国のために命を捧げた絞首刑前の戦士の手紙など独立戦争下に置かれた数多くのアメリカ人が、自らの信念のために戦ったことを強調している。ちなみにトランプ政権はアメリカ建国250周年記念に関連する事業には優先的に助成金を配分するとしている。ニューヨークでは、トランプ政権に対して相反するような立場の展覧会が同時期に開催されているのだ。
アートの現場はいま、かつてない緊張感にさらされている。それでもアーティストは作品をつくり続け、葛藤し、挑戦し続ける。そして、それを支えようとする人たちがいる。この「しぶとさ」こそが、アメリカのアートシーンの底力だ。権力に迎合せず、社会の矛盾を見つめ、表現する──そんなアートの意義は、これからますます問われていくはずだ。
★1──Olivia Hampton, “Painter Amy Sherald asks: What is American?” https://www.npr.org/2025/04/08/nx-s1-5351010/amy-sherald-american-sublime-whitney-museum
★2──Valentina Di Liscia, “Organizations Lose Pivotal Grants as DOGE Takes Axe to Humanities Agency”https://hyperallergic.com/1001103/organizations-lose-pivotal-grants-as-doge-takes-axe-to-humanities-agency/(Hyperallergic, 2025.5.31最終閲覧)。
★3──”Robert De Niro hits out at Trump in Cannes speech” https://www.cnn.com/2025/05/14/entertainment/robert-de-niro-trump-cannes-speech-scli-intl(CNN、2025.5.31最終閲覧)
★4──Sarah Hotchkiss, Gabe Meline, “Trump Cancels NEA Grants for Many Bay Area Arts Nonprofits” https://www.kqed.org/arts/13975661/national-endowment-for-the-arts-grants-canceled-nonprofits(KQED、2025.5.31最終閲覧)
★5──Margaret Carrigan & Brian Boucher, “All the Arts Organizations Impacted by NEA Funding Cuts” https://news.artnet.com/art-world/nea-funding-cuts-2640963(art net、2025.5.31最終閲覧)
★6──2022年のNEAのファクトシートより。https://www.arts.gov/sites/default/files/NEA-Quick-Facts-8.9.22-two-pager.pdf
★7──Olivia Hampton, “Painter Amy Sherald asks: What is American?” https://www.npr.org/2025/04/08/nx-s1-5351010/amy-sherald-american-sublime-whitney-museum(NPR、2025.6.2最終閲覧)
★8──Michael Paulson, “Theaters Sue the N.E.A. Over Trump’s ‘Gender Ideology’ Order” https://www.nytimes.com/2025/03/06/theater/nea-aclu-gender-lawsuit.html(The New York Times、2025.5.31最終閲覧)
★9──Michael Paulson, “Nervous Corporate Sponsors Retreat From New York Pride
” https://www.nytimes.com/2025/05/21/nyregion/nyc-pride-sponsors-trump-tariffs.html(The New York Times、2025.6.2最終閲覧)
★10──Tessa Solomon, “Amid NEA Dismantling, Warhol and Frankenthaler Foundations Announce $800,000 Fun” https://www.artnews.com/art-news/news/warhol-frankenthaler-foundation-fund-nea-1234741437/(ARTnews、2025.5.31最終閲覧)