会期:2026/04/25~06/21
会場:栃木県立美術館[栃木県]
公式サイト:https://hotchpotch-ten.jp

前編より)

しかし藤枝は、このようにデザインとしての完成度を求めるばかりではなく、絵を描くことを楽しんでおり、そのことが伝わってくる仕事も数多く展示されていた。87年以降ほぼ毎年のペースで行なわれている個展出品作もそうであるが、そうした様子は仕事として描かれたイラストレーションからも感じられる

例えば「ハッチポッチ」の絵本シリーズの原画を見ると、マジックの滲みがそのまま画面に生かされていることが知れる。またADの副田高行との仕事では、デザインの素材としてイラストレーションを提供する職人的なスタンスで取り組んでいる様子だ。『キューピーちゃんの やさいばたけで かくれんぼ』(フレーベル館、2012)の表紙原画では絵の具で色面が塗り込まれているが、完成した絵本では網点のようなテクスチャーが施され、その印象がより軽やかになっていた(下図参照)。こうした加工を受け入れられるのは、長く仕事を共にしている副田への信頼もあるだろうが、「デザインされるもの」としてのイラストレーションをなによりも藤枝自身が理解しているからだろう。

「ハッチポッチ 藤枝リュウジの世界」より『キューピーちゃんの やさいばたけで かくれんぼ』(フレーベル館、2012)の表紙原画[筆者撮影]

このようにデザインとイラストレーションの「二刀流」のキャリアを一貫して取り組んだという点においては、日本のイラストレーターで他に比較し得るのは和田誠、原田治、寄藤文平らが考えられるが、そこまで多くはない。それほど藤枝の存在は歴史的に見て重要であるのだが、その一方で現在の視点から彼の「キャラクター」に対するアプローチを検証してみると、ある美学が浮かび上がってくる。

すでに述べたように「ハッチポッチ」と一連の子供向け番組において、藤枝はキャラクターデザイナーとして多くのキャラクターを生み出してきた。そしてその扱いに関して彼と対比させるためにここで参照したいのは、坂崎千春である。坂崎は2001年に自らの絵本のキャラクターだったペンギンがJR東日本のICカード(Suica)導入にあたってのキャンペーンキャラクターとして採用されたことで一躍有名になった。すでに来年(2027年)3月末での卒業が発表されているが、ペンギンは現在もメインキャラクターとして親しまれている。坂崎は他にも千葉県のマスコットキャラクターであるチーバくんをはじめ数多くのキャラクターをデザインし、このジャンルを牽引している。彼女のキャラクターもまた藤枝のキャラクターのように記号的でアイコニックであるが、その運用においては差異が見出せるだろう。

坂崎のキャラクターは、各種グッズに展開される際、基本的にその形態が大きく変わることはない。しかし藤枝の場合は、ケースによってキャラクターの身体が大胆にアレンジされている。例えば《ハッチポッチステーション 卓上カレンダー 2003》はキャラクターが必要最低限の輪郭線に還元され、背景のコンポジションと一体化している。また、藤枝は個展で発表するオリジナルの絵画に自ら生み出したキャラクターを登場させ、造形的要素として自由に扱っている。

こうした違いは、坂崎が2000年代以降より加速した、キャラクターをアイコンとしてマルチプルに展開していくライセンスビジネスのデザイン業界からの注目もあってブレイクしたのに対し、藤枝がそれ以前から活動していたという世代的な差がまずあるだろう。しかしそれ以上に、藤枝の「絵」に対するスタンスがここには反映されているのではないだろうか。彼は絵の具で色を付ける際、筆で細かい凹凸を付け、そのテクスチャーで画面全体を塗り込むことがある。単にマチエルが欲しいだけであれば、地塗りとして全体に質感を施したほうが作業効率的には良いはずだ。だが筆者の確認したところ、その多くは領域ごとに個別に塗り分けられていることが多かった。それによって、背景とその上に描かれた図像の関係は単純な主従関係ではなく、ひとつの平面としての強度を有することになるのである。

「ハッチポッチ 藤枝リュウジの世界」展示作品[筆者撮影]

もちろん藤枝も多くのプロダクトにおいてキャラクターデザインを遵守したグッズを制作しているが、このようなフレーミングされた画面に対するこだわりが、結果的にキャラクターに対するアプローチを、坂崎と比較してより絵画的なものにさせていたのではないだろうか★4

このように、藤枝の仕事はキャラクターがデザインのみならず文化全体のなかで手法としてある意味濫用されている現代の日本において、いかにしてイメージの生産にクリエイターが自らの痕跡を残すのかという観点からも重要なものだと言えるだろう。

 

★4──こうした藤枝の平面に対するデザインの洗練と「子供向け」のテイストは、大まかに系統づけるならば、100% ORANGEに受け継がれたものでもある。

参考資料
・藤枝リュウジ『ハッチポッチ 藤枝リュウジの世界』(クレヴィス、2025)
・塚田優「1990~2000年代前半におけるイラストレーションの再定義をめぐって──エンライトメント、みうらじゅん、唐仁原教久、寄藤文平、山口裕子らの実践を中心に」(『多摩美術大学研究』14号、多摩美術大学、2025、13~37ページ)

 

鑑賞日:2026/05/04(月)