会期:2026/05/15~05/24
会場:BONUS TRACK GALLERY 2[東京都]
公式サイト:https://note.com/bonustrack_skz/n/neb95ed6a0dca

前編より)

では作為性そのものを駆け引きの対象にするようなこの「組み木ペインティング」は、どのように作られているのだろうか。その鍵を解くのは「AI」である。小田島によると、これらのシリーズの制作手順は次の通りだ。まずデジタルでドローイングを行ない、それをAIに読み込ませる。次に自身の過去作を学習させ、プロンプトを指示する。そこで出来上がったイメージを線画に変換し、2016年の個展「アイロニカルな肯定、その愛。」(TETOKA)でも使われたレーザー加工機で支持体を分割する。それを組み木として再構成しながら、AIが出力したイメージを作者自身で再編集・再構成するようにして一群の作品は完成するという。


「HEAD LUX KISS」展示風景[写真:皆藤将(美学校)]

細かな部分は小田島の判断も入っているとのことだが、このように「組み木ペインティング」はAIを制作過程に組み込むことによって出来上がっている。かつてマーシャル・マクルーハンは「私たちは道具を形づくり、その後、道具が私たちを形づくる★2」という言葉を残したとされるが、小田島ほど、この言葉の後半部分「道具が私たちを形づくる」というテーゼを体現しているクリエイターはいないだろう。彼はそのデザインワークにおいても、絵をコピー機にかけ、荒れた状態をあえて作り出すことで「機械の使い方のバグ的というか、隙間的なものを楽しんでるんです★3」と語っている。

しかもその「道具」が、どのような出自を持つものでも構わないという平等性も彼の特徴だ。小田島はくるりなどさまざまなミュージシャンの作品のデザインを手がけているが、ここで言及したいのは、サニーデイ・サービスのアルバム『東京』(1996)のジャケットデザインである。水辺に咲く満開の桜が大きくレイアウトされた同作であるが、実はこの図版はアルバム用に撮影されたものではなく、植物図鑑から取られたものである。小田島は図鑑の白い桜をカラーペンでピンクに塗って、ジャケットを完成させた。ここにおいて明らかになるのは、道具として何を選ぶかという「サンプリング」が、デザインにおける重要な要素となっていることである。

もちろん、こうした美意識は小田島が音楽、現代美術に薫陶を受けるなかで育まれたものであるが、日本のグラフィックデザインに話を限定すると、アートディレクターの信藤三雄の仕事とも共鳴するだろう。信藤は1990年代の渋谷系やJ-POPのミュージシャンのCDジャケットのデザインで知られている。彼は過去の音楽を引用、編集することに積極的だった渋谷系ミュージシャンに呼応するかのように、ピート・モンドリアンやファッション誌『VOGUE』の写真など、有名無名問わず、さまざまな過去の表象を用いてデザインを行なっていた。

このような意味で小田島は、信藤と同様90年代の音楽シーンにおいて時代を象徴するビジュアルイメージを作り出してきた存在だと言えるだろう★4。しかしそれ以上に、「組み木ペインティング」への分析を経て重視すべきなのは、そのキャッチーな仕事の基底にある「方法」へのこだわりこそが、彼のクリエイターとしての根本であるということである。LLMを通過した一回性の絵画は、ポップ・アートの重要な一要素でもあるコンセプチュアルな側面を顕在化させる。つまり小田島の取り組む「アノニマスポップ」とは、匿名性を起点としながらも、最終的にはそれぞれの仕事に固有の値を立ち上げるような営みだったのである。

★2──徳井直生『創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語』(ビーエヌエヌ新社、2021、67ページ)
★3──前掲「イラストレーター・デザイナー 小田島等」
★4──また、イラストレーション史上に小田島を位置づけるならば、スージー甘金との関係が重要になるだろう。本稿執筆に際してのやりとりのなかで、小田島はスージーを「パロディ」を背景に持つ作家であると述べ、自身は「サンプリング」「シュミレーション」であると語ってくれた。

参考資料
・小田島等『ANONYMOUS POP 小田島等作品集』(スペースシャワーネットワーク、2010)
・コンテムポラリー・プロダクション『シーティーピーピーのデザイン』(光琳社出版、1996)

鑑賞日:2026/05/18(月)