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公式サイト:https://www.cca.qc.ca/en/events/99570/to-build-law

ドキュメンタリー映画『To Build Law』(2024) © CCA.



ドイツ人建築家のアルノ・ブランドルフーバーらが、2021年にベルリンで始動した建築設計コレクティブ、bplus.xyz(b+)は、既存建築の境界を解きほぐし、限られた操作によって非建設を成立させる改修・転用を設計活動の軸としている。既存の構造を壊して新たに置き換えるのではなく、そこに残された空間、文脈、素材を読み替える。その抽象的なまでの「建てなさ」は、建築を新たなオブジェクトとして生産するのではなく、すでにあるものとの関係を組み直す行為として捉えたものだ。

こうした実践は物理的なリノベーションにとどまらず、建築環境を規定する法制度そのものを設計対象とした政治的アクティビズムへと展開している。ブランドルーバーもメンバーであるチューリッヒ工科大学のstation.plus(s+)との共同プロジェクト「HouseEurope!」は、解体・新築が選択されやすい制度や評価軸を見直し、既存建築の改修を欧州のスタンダードとして促進するための政治的アクティビズムである。この「HouseEurope!」の舞台裏を描いたドキュメンタリー映画『To Build Law』は、CCA(カナダ建築センター)の映像・展示シリーズ「Groundwork」三部作のひとつとして制作された。そのタイトルが示すように、彼らは建物を建てるのではなく、公開審議によって法を「建てる」(整備する)ことで都市空間を設計しようとしている。

『To Build Law』より。Still from the documentary film To Build Law, 2024 © CCA.



背景にあるのは、世界のCO₂排出量の約38%、総エネルギー消費量の約35%を占めるとされる★1、建築・建設業界の環境負荷の大きさと、建物が生活インフラではなく投機対象として扱われる不動産の金融化への批判である。利潤を追求するスクラップ・アンド・ビルドが加速する一方、多くの都市では住宅不足や価格高騰が深刻化している現実がある。解体・新築を最善とするのではなく、既存建物の価値を見直し、改修や適応型再利用を選択しやすい環境へと転換することが「HouseEurope!」の目標となる。

その手段として用いられるのが、欧州市民イニシアチブ(ECI)という市民発議制度である。EU加盟国のうち7カ国以上から計100万筆以上の署名を集めることで、欧州委員会に立法を提案できるこの制度を活用し、同プロジェクトは、既存建物の改修に関わる税制優遇、EU全域で統一した改修・転用可能性を評価する規則の制定、既存建物の過去のCO₂排出まで対象とするLCA(ライフサイクルアセスメント)の導入などを含む新たな評価枠組みの提案をミッションに掲げる。ボトムアップで法改正を働きかける過程として『To Build Law』が映し出すのは、パートナーシップの形成、市民への呼びかけ、法案の起草、キャンペーン戦略の策定、ロビー活動といった一連のプロセスである。通常は周縁に置かれ目的化しづらい交渉や合意形成といったプロセスが、ここでは建築環境を変革するための設計行為として前景化され、市民へと開かれた構築として示される。

『To Build Law』より。Still from the documentary film To Build Law, 2024 © CCA.


興味深いのは、本作が建築とストーリーテリングを架橋しながら、既存の構造・制度・関係を組み替え、改修を実効性のある手段として開いている点にある。本作ではチューリッヒの建築事務所、Esch Sintzel Architektenがバーゼルで改修した建物が紹介される★2。1955年竣工時のワイン倉庫から配送センターへと用途を変えてきたこの建物は、社会住宅(ソーシャル・ハウジング)への転用にあたり、当初からの構造躯体である巨大な柱とスラブを減築のなかで保存活用することで、コストを抑えつつ新築比42%のグレーエネルギーを節約した。定量的な価値とともに、柱の性格を住空間へと引き継ぐストーリーテリングが演出され、ECIでの提案における実践可能性が示される。

「HouseEurope!」は、2026年1月31日で署名の収集を終了し、約1年間で集まった署名はわずか約8万筆と目標には達成していない。それでも、目に見えない設計のプロセスを建築の前景へと引き出した点に意義を見出せる。建築家の役割は、異なる専門性や市民を結びつけ、空間の変化を生じさせるための条件を構築することへと拡張される。それは都市空間が多様に機能するための、新築の設計・建設だけではない実空間のリノベーションという意味において、今日の生活様式の骨組みをめぐる社会実践と言えるだろう。

この運動から想起されるのは、ヨーゼフ・ボイスが提唱した社会彫刻である。誰もが彫刻家として社会の形成に参加しうると説いたボイスは、「国民投票による直接民主制のための組織」の設立(1971)や、ドクメンタ7を起点に市民とともにカッセル市内へ7000本の樫を植樹した《7000本の樫の木》(1982〜)など、社会や現実を概念的な素材として扱う芸術活動を展開した。対して「HouseEurope!」は、法制度という検証可能な回路を通じた社会参加の試みである。本作が描くのは、都市を構成する物質・空間・人々、そして法規を多くの市民とともに語り直すことの意義と、そのためのプラットフォームおよび方法の更新なのである。

ベルリン、テンペルホーフ空港でのHouseEurope!の集会、2024年。『To Build Law』より。HouseEurope! assembly at Tempelhof Airport, Berlin, 2024. Still from the documentary film To Build Law, 2024 © CCA.


★1──国連環境計画、建築・建設グローバル・アライアンス「建築・建設グローバル環境ステータスレポート2020」(2020)
UNEP/GlobalABC “2020 Global Status Report for Buildings and Construction” (2020)
https://globalabc.org/resources/publications/2020-global-status-report-buildings-and-construction
★2──『To Build Law』より。https://www.youtube.com/watch?v=61fcc-Gfcz8

『To Build Law』
2024年/49分
原案・構成:フランチェスコ・ガルッティ、アイリーン・チン
監督:ジョシュア・フランク
撮影:アイリス・ン
編集:ケイラ・フラグマン