会期:2026/06/12〜2026/06/17
アトリエ春風舎[東京都]
作:山本正典
演出:山本正典+原竹志
公式サイト:https://kotorikaigi.yangotonaki.com/2026/Gesuitou/
『おかえりなさせませんなさい』が2025年の第69回岸田國士戯曲賞最終候補作にノミネートされ注目を集めたコトリ会議/山本正典。同作は第3回関西えんげき大賞で最優秀作品賞と観客投票ベストワン賞を受賞するなど高い評価を受け、劇団の代表作となった。そのコトリ会議の新作『この上のない下水筒』(作:山本正典、演出:山本正典+原竹志)はしかし、これまでの作風の延長線上にありながら、劇団の新境地を示す作品となっている。
ある夜。東日出中ゴミ拾い部の元部員・朝倉くんの死を知った同じく元部員たちが彼の住んでいたアパートにやってくる。部員たちが顔を合わせるのは中学卒業以来28年ぶりのことだ。ゴミ拾い部の元部長で、ことあるごとに朝倉くんと対立していた木戸(阪本麻紀)、朝倉と親しくしながら、卒業後はゴミ拾い部のことを忘れたいと願い生きてきた磯部(のたにかな子)、いつも人の話を聞いていない朝倉派の尾田(原竹志)、そして朝倉派から部長派に寝返った小間井(花屋敷鴨)。ゴミ拾い部は何かしらの事件をきっかけに卒業を待たずして解散してしまったらしく、どうやら部員たちの間には、未だにそのことに起因するわだかまりがあるようだ。不在の朝倉を中心に久しぶりに再会した4人は思い出話を交わし互いの近況を尋ね合うが、ぎこちない会話はそこに強い不信が忍び込んでいるがゆえだろう。互いの不信が高まりゆくなか、やがて誰が置いたかわからない300万円が見つかって──。
[撮影:河西沙織(壱劇屋)]
コトリ会議の作品はそのほぼすべての作品においてSF的な設定が導入されている。SFといってもその多くはハードなそれではなく、例えばほとんど脈絡なく思えるようなかたちで宇宙人や人間ではない登場人物が登場するような世界を舞台とする、SF風味とでも言うべきテイストのものだ。このSF的な設定はとぼけたセリフ回しと相まって、コトリ会議の「少し不思議」な唯一無二の世界観を作り上げている。『この上のない下水筒』も例外ではない。
実はこの作品にはもうひとりの登場人物がいる。不在の(遺体となって奥の部屋に安置されている)朝倉の部屋に置かれている仮の朝倉(山本正典)である。「安村先生が楽天で取り寄せ」て「いろいろあったから」と部員たちのために置いたのだというその仮の朝倉はしかし、本物とは「顔が全然違う」らしく、のっけから尾田に「もう少し本人に寄せようと思わなかったのかい」「顔だけでも似せないとただのおじさんじゃないか」と言われてしまう。セリフ回しともどもいかにもコトリ会議な展開である。
[撮影:河西沙織(壱劇屋)]
さて、仮の朝倉は幽霊かクローンか、あるいはアンドロイドだろうかなどと思いながら観ていると、意外にも(?)仮の朝倉はこの作品の主題らしきものを体現する存在であることがわかってくる(いや結局のところアンドロイド(?)でもあるようなのだが……)。仮の朝倉が本物に似ていないという指摘はそのまま、28年ぶりに顔を見たのに棺の中にいるのが本物の朝倉だとどうして言えるのか、そもそも28年ぶりに会ったお互いが本人だとどうやってわかるのかという問いへと展開し、誰かの「本当の姿」を知ることなどできはしないのだという真理へと至るだろう。思いや思い出はすれ違い、それぞれが抱く人物像が「本人」と完全に一致することは決してない。たとえ朝倉が生きていたとして、周囲の人間が見ているのはどこまでいっても「仮の朝倉」でしかないのだ。
[撮影:河西沙織(壱劇屋)]
[撮影:河西沙織(壱劇屋)]
[撮影:河西沙織(壱劇屋)]
少しずつ各自の事情や思いが明らかになっていくワンシチュエーションの一幕劇は、ホラーの雰囲気をまとったサスペンスとして展開し、そして現実へと着地する。くすりと笑ってしまうような「少し不思議」な設定をそのまま、私たちが対峙する現実、あるいは他者という「謎」を体現するものとして提示してみせた山本の筆は、これまでの作品で「少し不思議」な世界を立ち上げてきたそれともまた違った巧みさを見せていた。少し不思議な世界を立ち上げることに留まらないその筆の力を改めて示してみせたのだと言ってもいい。「現実」を描くには山本の筆のナイーブさは危うくもあるものの(例えば本作で木戸に対して尾田が放つ「きみが性転換手術を施した朝倉くんなんじゃないのか」というセリフはまったく許容できるものではない。現在は性転換手術という言葉ではなく性別移行手術という言葉が使われているし、そもそもトランスジェンダーを取り巻く現在の状況を考えれば面白おかしく使っていい言葉でないことは自明だろう)、コトリ会議/山本正典の描く物語のさらなる広がりに期待したい。
『この上のない下水筒』ではコトリ会議としては2022年の『全部あったかいものは』以来の東京公演が実現したが、次は早くも10月に吉祥寺シアターで行なわれるショーケース公演『ラブ・演劇博 ─こちらの演劇、とおくのまちから。─』への参加が決定している。「地方を拠点に活動する劇団を吉祥寺シアターに招き、ショーケース形式で上演を行う」この企画では兵庫拠点のコトリ会議に加えて宮城のMICHInoX、岩手の冷蔵庫ポルカの作品も上演される予定だ。

観賞日:2026/06/17(水)
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