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学芸員レポート
青森/日沼禎子|東京/南雄介大阪/中井康之山口/阿部一直
「チャン・ヨンヘ重工業のアオモリ・アモーリ」/「アーティスツ・ミート・青森プロジェクトVol.5」
青森/国際芸術センター青森 日沼禎子
 
チャン・ヨンヘ重工業1
チャン・ヨンヘ重工業2
チャン・ヨンヘ重工業とAIRSによるインスタレーション
勢いあまって、今月も青森からレポートさせていいただきます! 手前味噌ですが、自身が関わるプロジェクトを2件ほど……。
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 国際芸術センター青森は、立ち上げ当初より市民とのパートナーシップによる運営を目指してきた。開館前のプレ事業として、内外11名を招聘したアーティスト・イン・レジデンス「puddles」を地元NPOとの連携によって開催。この際の運営体制、市民参画の形が雛形となり、開館後、A.I.R.S.(アーティスト・イン・レジデンス・サポーターズ)が発足。ACACで行なうAIR事業全般のサポート活動を自主的に行なっている。特にアーティストの滞在中の作品制作に関わるリサーチ、通訳、技術提供など、さまざまな面で協働してきた。メンバーは10〜60代まで、学生から社会人、主婦層までの幅広い人材、約60名余が登録者がそれぞれ活動を行なっている。
 このたび、アジア地域との相互理解を深め、青森市の芸術活動を発信することを目的とし、初めてAIRSが主催・企画したレジデンス事業が開催された。招聘アーティストは、ソウル在住のユニット、チャン・ヨンヘ重工業。現代に生きる人々の人生や日常の情景をテーマに、辛口の言葉と音楽とをフラッシュテキストにしたWEBサイト上の作品として発表。第50回ヴェネチア・ビエンナーレ(2003)、秋吉台芸術村アーティスト・イン・レジデンス(2003)、第3回福岡アジア・トリエンナーレ(2005)に参加したことでも記憶に新しい。
 本AIRではアオモリという地名からイタリア語アモーレ(愛)の複数形アモーリという言葉を連想したことから着想。青森の人々とともに「愛」をテーマとしたストーリーを作品とすることが提案された。チャン・ヨンヘ重工業が作った英語のテキストを、AIRSのメンバーが日本語の口語訳および津軽弁(青森の方言)に翻訳した。
 ACACの馬蹄形のギャラリーにランダムに置かれたモニター画面や壁へのプロジェクションに、さまざまなカップルの心の中の会話が、軽快な音楽にあわせて次々と展開する。愛し合い、信じあっているはずの男女の心の中の会話が、互いに微妙なズレを持って現われては消える。地元青森の人々にとっては、方言というものが「音」による伝承の言語であるゆえ、リアリティとして現われるはずの津軽弁が、文字=記号のように表わされることによってどこかとても他人行儀に感じられ、これもまた微妙なズレを生じる。もどかしくも、いつも伝わらない人と人同士のコミュニケーションである「言葉」というもの。互いの言語に翻訳されながらも、そこにはアーティストが生活者として滞在しながら生み出されるリアルさと、時が来ればいずれ去ってしまうというテンポラリーな関係性さえも見え隠れする。
 さて、このAIRで重要なのは、作品そのものに対する批評や、レジデンスでの成果というものがアーティストのキャリアパスに繋がる評価や効果ではない。市民たちが自らの目と経験からアーティストを選び、ともに働き、公開の場をつくり、より多くの人々へ伝えようとする行動である。そしてまた、その熱を受け止め作品に表わそうとするアーティストの力。その相互の関係性が生まれる場を、自らがつくろうとする行為こそが、私たちにとって今一番必要なことなのではないだろうか。AIRはそうした人々の力を引き出すスイッチなのである。
■アーティスツ・ミート・青森プロジェクトVol.5 ─ゲスト高嶺格との幸せな空間、有機的なつながり
アーティスツ・ミート・あおもりトークショー
トークショー会場の様子
 実は筆者は、「ARTizan」という青森市を拠点とする市民アートサポート組織の運営者でもある。同組織は、現在、展覧会、アート・フォーラムなど、市内および県域でアート事業を展開している。主な活動として、市中心市街地にある空きビルを利用し、クリエイターの発表の場を提供する「空間実験室」の他、本題にある「アーティスツ・ミート・あおもり・プロジェクト」(AMAプロ)を定期的(3カ月に1回)に開催している。AMAプロとは青森を舞台にアーティストと地域の人々とのネットワークを繋いでいくプロジェクト。ゲストによって次のゲストを紹介していただく方式をとり、青森市内のコーヒーショップを会場とし、トークショー、ワークショップ、パフォーマンスなどを開催しているものである。第1回目のきむらとしろうじんじんからスタートし、第2回伊達伸明、第3回石橋義正、第4回砂山典子へと続き、このたびの高嶺格へとバトンが引き継がれた。高嶺からは、初期の作品から《木村さん》《God bless America》《Baby Insa-dong》までをビデオを使ってじっくりと紹介された。青森には教育学部内にある美術専修コースを除くと芸術の専門課程を有する大学はなく、芸術の技術や知識を学ぶための場はとても限られているし、芸術関係を仕事としている人間もごくわずか。つまり、アートのこと、とりわけコンテンポラリーに属する類のものに対し、常にアンテナを立てている層はそう多くはないはずだ。そのことはある意味、世間に語られる芸術批評や報道という他者からの情報の先入観なく、アーティストに対して一人の人間として向き合うことのできる人々が存在する環境でもあるのだと思う。そのためか、AMAプロには毎回、実にさまざまな年代の人々が集う。
 3月とはいえ、春まだ遠い青森。埠頭にほど近く、寒風吹く屋外とは異なり、会場は静かな熱を帯びている。高嶺の作品に対し、限られた世界の中だけで語られてきた賞賛あるいは批判は、ここには存在しないし、それはまったく意味を持っていない。高嶺という只一人の人間からゆっくりと語られる真摯な言葉の一つひとつを、決して逃すまいとして真剣に耳を傾ける参加者たちがいる。JAZZをこよなく愛し、茶の湯にも通じる店主の淹れた、薫り高いコーヒーを共に味わう幸福な時間。
 参加者の中で70代と思しき男性から、「初めて、本物の芸術に触れた思いです。これからのご活躍とご健勝をお祈りします」という感想が寄せられた。裏方であるわれわれ主催者でさえ、ああ、こうした、ただ一人のためにこそ、自分たちは存在してきたのかもしれないという満たされた思いを抱いたのだから、アーティストにとっては殊更のことだったに違いない。
 このAMAプロは、個々のイベントは1日限りという短い時間ではあるが、着実に有機的なつながりを持ち始めている。きむらとしろうじんじんは、昨年秋に青森市と弘前市で野点を実現した。そして続く伊達伸明は、青森市内の個人宅の建造物をウクレレ化すべく、去る3月半ばに持ち主へのインタビューと部材の切り出しを終え、8月の完成を心待ちにされている。さて、次回6月に来青するゲストアーティスト(ここでは秘密!)とは、一体どんな出会いがあるのだろう。
会期と内容
●AIRS企画
「チャン・ヨンヘ重工業のアオモリ・アモーリ」
会期:2006年3月4日(土)〜3月21日(火・祝) 午前10時〜午後6時
会場:国際芸術センター青森 ギャラリーA
青森市合子沢字山崎152-6 Tel. 017-764-5200
問い合わせ:acac-1@acac-aomori.jp
主催:AIRS

助成:財団法人アサヒビール芸術文化財団
協賛:大韓航空、ARTizan

●Artist meet Aomori project Vol.5/ゲスト:高嶺格
日時:2006年3月5日(日) 14:00〜
場所:コーヒー成幸(青森市安方2-12-2 Tel. 017-722-3787)
主催:ARTizan(コーディネーター:中川広樹、小野史子)
問い合わせ:ARTizan事務局(090-9423-1009)
artizan@fromc.jp/

[ひぬま ていこ]
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