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学芸員レポート
青森/日沼禎子東京/南雄介|大阪/中井康之|山口/阿部一直
「その男・榎忠」/第2回現代美術コンクール受賞作家展
大阪/国立国際美術館 中井康之
 
「その男・榎忠」作家ポートレイト
「その男・榎忠」BAR ROSE CHU
「その男・榎忠」展示風景
上:作家ポートレイト
下: BAR ROSE CHU再現
「待望」の、というより、その展覧会のフライヤーにも記されているように「伝説」といった方が相応しい作家「榎忠」の個展が、最も大阪的な場所であるミナミ(心斎橋─なんば界隈)のキリンプラザ大阪で開催された。未だ現役の作家である氏に対して、つい「伝説」という単語を用いてしまうのは、《「半刈り」にして「ハンガリー」に行く》(1977)にしても、《BAR ROSE CHU》(1979)にしても、あるいはその後の様々な金属加工による立体造形作品にしても、情報ばかりが飛び交い、実際の「榎忠」作品を眼にできる機会が限られていたからであろう。
 しかし、このような型破りな行動を繰り返す「榎忠」を、一人のユニークな表現者として捉える努力を怠っていたのではないかと、この展覧会を見て自省の念に駆られた。というのは、この展覧会を見ることによって「榎忠」の起点がグループZEROというハプニング集団にあったことを再認識したことにも絡んでくる。去年、勤務先の国際美術館で企画した「野生の近代」というシンポジウムに於いて「地方の前衛」というセッションが組まれ、会場との質疑応答も含めて熱気に包まれた会議であったが、「具体」や「もの派」といった大きな動きに収斂されてしまうことによって、あたかもその他の中小の動きが見えなくなってしまうような危険性が常につきまとうことに対する危険性が問われたわけであるが、実際に「榎忠」のような作家の存在というのは、まさにそのような、関西という地元の地域にあったJAPAN KOBE ZEROという前衛グループに胚胎していたと思われるからである。
 榎忠が所属していたJAPAN KOBE ZEROというグループが加藤好弘を主宰としたZERO次元に端を発するのは間違いないであろう。加藤のとっていた性的なタブーに対する挑戦的なパフォーマンスのDNAは、《「半刈り」にして「ハンガリー」に行く》という冗談のような究極的行動へと結実したのである。この展覧会では、そのような「榎忠」という作家の半生を、多くの記録フィルムと作家自身の解説によって構成した映像を流していたが、その中で「榎忠」は、「真夏に外を放浪すると、延び放題にした頭半分からは汗が吹き出してドロドロとなり、残り半分は照り付ける日射でからからに干上がりとなって、意識が朦朧としてくる……」といった発言を聴くにつれ、その異様な風貌に無気味さばかりでなく凄みを感じさせてくるのである。さらには、ハンガリーへ行く大学研究者と知り合い、実際に当時東欧圏内であったハンガリーへ家族に出かけていった記録映像は魅せられるものがあった。
 今回の展覧会では、神戸の東門画廊で2日間だけ開店したという《BAR ROSE CHU》が再現され、毎週土曜日には「榎忠」が、当時と同じ、網タイツに金髪のフォッグそしてはだけたように見えるフェイクのバストというスタイルでサービスしている。まさに、生「榎忠」を体験できる。
 先に、このような作家を見過ごしてきたことに対して云々のように述べてきたが、記録映像の中で「榎忠」自身が語っているように、作家自身が美術館という場所や制度に対して一定の距離を置いてきた、という面も一つにはあっただろう。「榎忠」は自分のこのような活動を、そのようなアート・ワールドに影響を受けずに続けるために、金属加工の専門家という職業に就いて活動していたのである。実際、今回の展覧会も、ヤノベケンジという作家によるプロデュースであり、展示工作や展示構成等も、おそらくはヤノベ展のノウハウによるものであろう。今回の展覧会で図録が用意されなかったことも、そのような美術館という制度に対するものと考えるのは穿ちすぎであろうか。
 ヤノベケンジ関連で言えば、彼が単独審査員を務める大阪府の現代美術コンクールで入賞したグループAntennaとのコラボレーション展が大阪府立現代美術センターで開催されていた。同グループとは、彼らがまだ学生の時に関わる機会があったのだが、ヤノベという越えるべき対象を見出すことによって活動を続けていたようだ。近未来の日本につくられた「ヤマトぴあ」というテーマパークが孤絶された状況となり閉じた社会が形成され、という相変わらずの荒唐無稽な設定はAntenna特有のスタイルであり持ち味だろう。

会期と内容
●●「その男・榎忠」
会期:2006年2月11日(土)〜4月16日(土)
会場:キリンプラザ大阪 
大阪市中央区宗右衛門町 TEL. 06-6212-6578

●第2回現代美術コンクール受賞作家展─ヤノベケンジとあなたがつくる未来の物語─
「森で会いましょう─ジャッピー、トらやん、そして第3の塔─」
会期:2006年3月4日(土)〜3月18日(土)
会場:大阪府立現代美術センター 展示室A 
大阪市中央区大手前3-1-43 大阪府新別館南館 TEL. 06-4790-8520

[なかい やすゆき]
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