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「藤田嗣治展」
東京/
国立新美術館準備室
南雄介
藤田嗣治の生誕120周年を記念した大規模な回顧展が、東京国立近代美術館で開かれている。「日本でも幾多の藤田論が、これまで公にされてきた。しかしその割には、そうした議論が画家としての一つの藤田像を結ぶことは、これまでなかったように思われる。(中略)めったに展覧会も開かれることなく、画集も出版される機会も少ないままに、藤田の絵は人々の視野から消えつつある」と、カタログのなかで、企画者の尾崎正明氏は書いている。これはまさしく正鵠を射た指摘であるように私には思われる。
人々が藤田嗣治の絵を見ることがない、その理由はふた通りあって、ひとつはまず、実際に展覧会がなかなか開かれないこと。その困難な理由については、ここでは深く立ち入らないことにしよう。もうひとつは、人々が彼の絵を見ようとしないこと。藤田嗣治のように非常に個性的な様式を確立した画家にはとりわけよく見られることであるが、多くの人は典型的な作風の作品を期待し、そういう作品しか見ようとしなくなるのである。
そういう私自身も、藤田嗣治に関してはある了解のしかたで「独り決め」をしていて、実際に60年以上におよぶ画歴の、全体を眺めようとしたことはなかった。エコール・ド・パリの寵児としての藤田嗣治、もっとも優れた戦争画家としての藤田嗣治、戦後の甘美な宗教画家としての藤田嗣治、とまあ、不勉強な私の引き出しはこれで尽きてしまう。今回の展覧会は、このような認識の欠落を埋め、画業の全貌をバランスよく万遍なく見ることができた。それは非常に新鮮な体験であったし、得るところが多かった。
今までほとんど意識の外にあったのは、例えば1930年代から40年代にかけての、特に中南米や日本に取材した作品群である。もちろん、ある種のエキゾティズムは隠れもないのだが、それでもそれは、欧米人によってみられた他者による表層的な眼差しを超えるものを──西欧的な眼差しに擬態しきれないがゆえに生じてしまう毒のようなものを──あらわにしてしまっているように思われた。あるいはまた、甘美で平明な外観を持った戦後の作品が、子細に眺めるならば、実は表現としてかなり密度の高いものであったことにも、強い印象を受けた。
全貌が眺めわたされたことによって特に強く認識されたのは、例えば西欧絵画の歴史に対する参照がたえず行なわれていることで、これはまさに藤田嗣治が、異邦人としてひとつの絵画伝統に挑戦を企てたことの証左であるように思われれた。前述の過剰なエキゾティズムの問題と合わせて、ポスト・コロニアルな藤田像を構築することも可能なのではないだろうか。また後半の1930─40年代から戦後にかけての作品に見受けられる、ややもすればキャラクター的な、あるいはカリカチュア的な人物造型である。これには、大戦間のさまざまな具象画家たちとの共通点が見出されるし、また奈良美智やジョン・カーリンのような現代の作家たちさえ連想される。
藤田嗣治とその絵画が提示するさまざまな問題は、たとえ歴史的なものといえども、アクチュアルな射程を含んでいると言えよう。今回の展覧会は、藤田嗣治を発見し、わたしたちの視野のなかに確保するためのよい機会となるに違いない。
会期と内容
●東京会場
東京国立近代美術館
2006年3月28日〜5月21日
東京都千代田区北の丸公園3-1 TEL.03-5777-8600(ハローダイヤル)
●京都会場
京都国立近代美術館
2006年5月30日〜7月23日
京都市左京区岡崎円勝寺町 TEL. 075-761-4111
●広島会場
広島県立美術館
2006年8月3日〜10月9日
広島市中区上幟町2−22 TEL. 082-221-6246
[みなみ ゆうすけ]
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